デジタル大辞泉
「土」の意味・読み・例文・類語
ど【土】
1 つち。土壌。「土に帰す」
2 土地。地方。国。
「医師は…至急に―を換うるが第一ならんと」〈逍遥・内地雑居未来之夢〉
3 土曜日。
4 五行の第三位。方位では中央、季節では土用、五星では土星、十干では戊・己に配する。
つち【土】[書名]
長塚節の小説。明治43年(1910)発表。作者の郷里鬼怒川のほとりの農村を舞台に、貧農一家の生活を写生文体で精細に描く。昭和14年(1939)、内田吐夢監督により映画化。出演、小杉勇、風見章子ほか。第16回キネマ旬報ベストテンの日本映画ベストワン作品。
に【▽土】
土。特に赤土。
「櫟井の丸邇坂の―を端―は膚赤らけみ」〈記・中・歌謡〉
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つち【土・地】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 地球の外殻、特に陸地。また、その表面。大地。地上。地面。⇔天(あめ)。
- [初出の実例]「天上(あめ)に神有します。地(ツチ)に天皇有します」(出典:日本書紀(720)推古八年二月(図書寮本訓))
- 「大空より人、雲に乗りて下り来て、つちより五尺ばかり上りたる程に、立ち列ねたり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
- ② ①を形成している岩石などが細かい粉末状となったもの。岩石・鉱物と区別していう。
- [初出の実例]「無き八尋殿を作り、其の殿の内に入りて、土(つち)を以て塗り塞ぎて」(出典:古事記(712)上)
- 「吹き来る風もいと寒く道の辺はいてかへりて、土とも石ともわきがたきに」(出典:談義本・風流志道軒伝(1763)二)
- ③ ( ①から転じて ) 道路。
- [初出の実例]「つちありくわらはべなどの、ほどほどにつけて、いみじきわざしたりと思ひて」(出典:枕草子(10C終)三九)
- ④ ( ①から転じて ) 地上の世界。現実の世界。現世。俗界。
- [初出の実例]「てんぢくの山、にはとりのみねのいはやにまれ、こもり侍らむ。それもなほつち近し」(出典:堤中納言物語(11C中‐13C頃)よしなしごと)
- ⑤ 地上の、ある特定の場所。限られた地域。地(ち)。
- [初出の実例]「汝が修行成就して、再び此土へ帰りし時」(出典:談義本・風流志道軒伝(1763)一)
- ⑥ 階段。きざはし。
- [初出の実例]「(階(ツチ))を上りて来りて堂の内に入りて」(出典:石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃))
- ⑦ 価値のないもの、容貌の醜いことのたとえ。
- [初出の実例]「ここちよき人を見集むれど、似るべくもあらざりけりと覚ゆ。御前なる人はまことにつちなどの心ちぞするを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蜻蛉)
- ⑧ あかぬけていないこと。また、そのもの。いなか。いなか者。
- [初出の実例]「いなかのきゃくていな。〈略〉つちのくせにせりふつけて、いけたしろものじゃない」(出典:洒落本・風流裸人形(1779か)下)
- ⑨ ( 「じげ(地下)」の「地」の訓読みか ) 清涼殿殿上の間に昇殿する資格を認められていないもの。地下(じげ)。
- [初出の実例]「六位といへど、蔵人とにだにあらず、つちの帯刀の、歳二十ばかり、長は一寸ばかりなり」(出典:落窪物語(10C後)一)
- ⑩ 摂津国有馬郡名塩村(兵庫県西宮市塩瀬町名塩)で産した鳥の子紙の一種。泥土を混ぜるため厚くて重く、裂けやすかったが耐熱性、防虫性にすぐれた。名塩紙。〔文芸類纂(1878)〕
- ⑪ ( 「犯土・槌・椎」とも書く。「つぢ」とも ) 陰陽道や近世の俗信で、地神が土中にいると考え、穴掘・築土・動土など土を犯すことを忌むこと。また、その期間。干支一巡の間、庚午から甲申に至る一五日間をいい、そのうち、庚午から丙子に至る七日間を大土(おおつち)、戊寅から甲申に至る七日間を小土(こつち)、中間の丁丑日を間日(禁忌から解放される日)とする。一説に庚午から丁亥に至る一八日間ともいう。また、この期間中、出産を忌むとされ、特にこの期間に汲んだ水を産湯に使うことは禁物とする風習があった。→大土・小土。
- [初出の実例]「槌に生れて咒詛(まじない)の風 一に俵大黒殿の御悦び」(出典:俳諧・西鶴大矢数(1681)第三一)
- ⑫ 「つちぎみ(土公)」の略。
- [ 2 ] ( 土 ) 小説。長塚節作。明治四三年(一九一〇)発表。鬼怒川近郊の貧農勘次一家の、救いのない生活の中にも懸命に土に生きる姿を、精細な写生文体で描く。農民文学の代表作。
ど【土】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① つち。土壌(どじょう)。〔書経‐禹貢〕
- ② 土地。大地。国土。領地。地方。場所。
- [初出の実例]「又彼仏は此土の衆生に大誓願あり。此土の衆生は彼仏に大因縁あり」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
- 「嶋にも人まれなり。おのづから人はあれども、此土(ド)の人にも似ず。色黒うして牛の如し」(出典:高野本平家(13C前)二)
- [その他の文献]〔春秋左伝‐隠公一〇年〕
- ③ 五行の一つ。季節では土用、方位では中央、色では黄、天体の五星では土星にあたる。
- [初出の実例]「此神に木・火・土・金・水の五行の徳まします」(出典:神皇正統記(1339‐43)上)
- [その他の文献]〔史記‐天官書〕
- ④ 「土曜」の略。古暦で、七曜の一つ。また、現今の暦で一週間の七番目。
- [初出の実例]「一日(土)歳を観潮楼に迎ふ」(出典:森鴎外日記‐明治三一年(1898)一月)
- [ 2 ]
- [ 一 ] 「土佐国」の略。
- [ 二 ] 「トルコ(土耳古)」の略。
に【土・丹】
- 〘 名詞 〙
- ① つち。
- [初出の実例]「櫟井(いちひゐ)の 丸邇坂(わにさ)の邇(ニ)を 端土(はつに)は 膚赤らけみ 底土(しはに)は に黒きゆゑ 三栗の その中つ邇(ニ)を」(出典:古事記(712)中・歌謡)
- ② 赤い色の土。また、辰砂(しんしゃ)あるいは、赤い色の顔料。あかに。
- [初出の実例]「取り佩ける 大刀の手上に 丹(に)画き著け」(出典:古事記(712)下・歌謡)
- 「口びるにはにと云ふもの塗りたるやうに」(出典:浜松中納言物語(11C中)一)
- ③ 赤い色。また、赤い色をしたもの。
- [初出の実例]「海は即ち青波浩行(ただよ)ひ、陸は是れ丹(に)の霞空朦(たなび)けり」(出典:常陸風土記(717‐724頃)行方)
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普及版 字通
「土」の読み・字形・画数・意味
土
常用漢字 3画
[字音] ド・ト
[字訓] つち・くに・ところ
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 象形
土主の形。土を饅頭形にたて長にまるめて台上におき、社神とする。卜文にはこれに鬯(かんちよう)する形のものがあり、(社)の初文として用いる。〔説文〕十三下に「地の物を吐生するなり」(小徐本)とし、二は地、(こん)は物の出る形であるとするが、土主を台上におく形である。のち土地一般の意となり、示を加えてとなった。卜文・金文は土を社の意に用い、は中山王諸器に至ってみえる。古い社の形態は、モンゴルのオボの形態に近く、中山王器のの字には土の上に木を加えている。〔説文〕には土を吐(と)の音を以て説くが、〔周礼、考工記、玉人、注〕には「度(はか)るなり」と度(ど)の音を以て説き、〔広雅、釈言〕に「瀉(そそ)ぐなり」と瀉(しや)の音を以て説く。土は社神のあるところ、地も古くは(墜)に作り、神梯((ふ))の前に犠牲をおき、社神を祀るところであった。土地一般をいうのは、後起の義である。
[訓義]
1. 土神、つちのかみ、やしろ。
2. くに、ところ、うぶすな。
3. つち、つちくれ、ひらち、耕地。
4. 社・杜と通じ、もり。
5. 五行の一。
[古辞書の訓]
〔名義抄〕土 ツチ・イシ・トコロ・ヲリ・ハカル・クリ・ワタル・ツチフル・タマ/泥土 コヒヂ/沙土 スヒヂ
[部首]
〔説文〕の土部に百三十一字、〔新附〕十三字、〔玉〕土部の字は三百五十五字で、約三倍に及んでいる。
[声系]
〔説文〕に土声として・吐・徒・杜の四字を収める。徒はもと土と(ちやく)とに従う字。徒歩の意とされるが、古くは社の従属の意であろう。吐は吐瀉の声を写した字。杜には杜塞の意がある。
[語系]
土tha、ziyaは声近く、は土より分岐した字でもと同源の語。〔公羊伝、僖三十一年〕「侯は土を祭る」、〔詩、大雅、緜〕「迺(すなは)ち冢土を立つ」の土はいずれも社の意。〔説文〕一上にを「地なり」とする。土は土主の形、社は地主の意にほかならない。
[熟語]
土域▶・土蚓▶・土宇▶・土垣▶・土圜▶・土屋▶・土化▶・土貨▶・土歌▶・土花▶・土▶・土階▶・土塊▶・土灰▶・土怪▶・土気▶・土▶・土基▶・土▶・土宜▶・土儀▶・土牛▶・土居▶・土境▶・土橋▶・土疆▶・土狗▶・土偶▶・土窟▶・土軍▶・土圭▶・土▶・土穴▶・土古▶・土鼓▶・土工▶・土公▶・土功▶・土▶・土寇▶・土梗▶・土▶・土膏▶・土豪▶・土産▶・土室▶・土質▶・土実▶・土▶・土処▶・土匠▶・土娼▶・土障▶・土牆▶・土鬆▶・土城▶・土壌▶・土色▶・土神▶・土人▶・土性▶・土塑▶・土葬▶・土俗▶・土賊▶・土台▶・土断▶・土壇▶・土地▶・土稚▶・土著▶・土珍▶・土堤▶・土泥▶・土田▶・土▶・土▶・土伯▶・土薄▶・土▶・土匪▶・土缶▶・土風▶・土物▶・土墳▶・土兵▶・土壁▶・土崩▶・土木▶・土民▶・土毛▶・土▶・土▶・土劣▶・土牢▶・土▶・土籠▶・土椀▶
[下接語]
埃土・安土・異土・穢土・裔土・王土・下土・化土・花土・懐土・客土・丘土・郷土・疆土・啓土・故土・后土・荒土・黄土・国土・湿土・爵土・出土・焦土・浄土・壌土・埴土・塵土・水土・寸土・尺土・赤土・瘠土・積土・践土・率土・拓土・摶土・築土・中土・冢土・田土・唐土・陶土・粘土・農土・坏土・肥土・風土・糞土・辟土・辺土・邦土・封土・本土・冥土・沃土・楽土・領土・累土
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
土
つちとい
[現在地名]仙台市土樋・土樋一丁目
広瀬川左岸沿いの東西に長い通りで、北西部は片平丁の南端部、西端部は米ヶ袋、東端部は石名坂・堰場に接する。割付の時期は寛永四―五年(一六二七―二八)の若林城普請に伴う城下南東方への拡張期である寛永年間と思われる。正保仙台城絵図では西半部に侍屋敷と鷹師屋敷が割付けられ、東は餌指屋敷がみえる。元禄城下絵図にも侍・餌指衆の屋敷がみえるが、侍屋敷も大半が狭い屋敷割であることから、組士に属する鷹匠の屋敷と考えられる。餌指は足軽に属した。「仙台鹿の子」に、むかし土の樋をかけて水を流したことがあるので名があるとみえ、土の樋を利用して流した水は孫兵衛堀に注いだものと思われる。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
土(土壌)
つち
土は地面の表部を覆う自然物で、かつてその土地にあった岩石や砂礫(されき)の層が風化してできたものである。その色や硬さおよび乾湿の違いは、風化作用の原因となった気候の違いに由来し、植被の状態や人間の農耕と居住の営みなどの影響で、世界各地に特有の土がつくられた。地学的に土を研究する学問を土壌学とよぶ。
[浅海重夫]
人類は有史以前はるか昔から、土を用い、土とかかわって生活してきた。まず第一に、それは道具や装飾品を生み出すための素材であった。後期旧石器時代人は岩絵とともに粘土のレリーフ像を残したし、その後、新石器時代に入って世界各地に発生した土器の製作は、生活上有用な道具の誕生を意味するとともに、しばしば芸術ともいえる優美な作品を生み出すこととなった。石や骨のように利器としての価値はないが、可塑性の素材である土は、人間の創造力の自由な表現の対象の一つとなり、メソポタミアのように紙が発明される以前には、文字が粘土板の上に刻された例もある。また、地域によって土は住居の素材としても重要である。このほか、土はしばしば身体塗飾にも用いられている。赤土や白土が一種の顔料として塗られる場合もあるし、また衣服をもたない民族が、気温変化から身を守るために油を混ぜた土を身体に塗り付ける場合もある。土はしばしば呪術(じゅじゅつ)や占いの道具でもあり、たとえばアフリカでは土の上にビーズ玉や豆を投げて病気の原因を占ったりする「土占い」が多数みられる。
中国の陰陽五行説のなかにみられるように、土を宇宙の構成要素の一つとする考え方も少なくない。また人類の創造に関して、最初の人間は土から生まれたとする神話も多い。たとえばメソポタミア人の伝承によれば、原初の人間は肉と骨と土からつくられた。『旧約聖書』のなかでもアダムは粘土からつくられたことになっている。
人間と土との関係を考えるうえで、農耕のもつ意味は非常に大きい。それは人間の、きわめて直接的でかつ積極的な土への働きかけである。これは人間の信仰体系とも密接な関係を有し、一般に牧畜民族においては宗教は天界の神を中心として営まれる傾向が強いのに対し、多くの農耕民の宗教においては大地の神への信奉が重要部分を占める傾向がある。焼畑農耕民の多くは、畑を開く前に土地の神を祀(まつ)るし、日本の山地の焼畑でも、畑を開く前にその場所に注連縄(しめなわ)を張る所がある。大地は自然の再生、生殖力の源泉とみなされ、それゆえ大地の神はしばしば女性と結び付けられる。たとえばギリシアのデメテル、ローマのディアナ、インドのカリ、エジプトのイシスなどの諸神である。また、農耕作業を性行為に見立てることは、多くの文化にみられるところである。インドのある聖典のなかでは、大地は女性生殖器に、種子は精液に同一視されているし、「コーラン」のなかでも「汝(なんじ)の妻たちは汝の耕地である」と述べられている。それゆえ、農耕儀礼の一環として、大地の豊饒(ほうじょう)を促進するべく、儀礼的な性交やその模倣を行う文化も世界各地に存在する。一方、農耕を行わないか、あるいは行うにしても深耕を忌み嫌う民族のなかには、北米インディアンのある部族のように、大地を傷つけることを恐れるものもある。
[瀬川昌久]
建築をするとき地を画して地祭(じまつり)を行うことは全国一様である。地鎮祭(じちんさい)といって神職がきて地を清め、四方を固め、それが済むと地つきにかかる。福井県三方上中(みかたかみなか)郡若狭(わかさ)町常神(つねかみ)では新築に着手するときツチマツリをする。土地を塩で清め東西南北に幣(ぬさ)を立てて寺院の住職に拝んでもらう。火災にあった家では土を掘り取り清い山土と入れ換えることもした。地神(じがみ)、地主(じぬし)様を屋敷内に祀(まつ)っている例は全国各地にある。関東地方では簡単なワラミヤをつくって春秋の社日に祀っている。地神は土地の神であり、また先祖を祀ったものである。人が死んで33年か50年すると地神になるという。地神は土地の神なので、人が他へ移転しても地神はそこへ置いておく。島根県隠岐(おき)島では各戸で地主さんといって旧暦11月子(ね)の日に祀っている。やはり他へ移転しても地主さんは置いておき、祭日には他へ移った者も帰ってきて祭りに参加するという。地神の祭日にはどこでも土をいじることを禁じている。
[大藤時彦]
土(長塚節の小説)
つち
長塚節(たかし)の長編小説。1910年(明治43)6月13日から11月17日まで『東京朝日新聞』に151回にわたって連載。12年5月春陽堂刊。作者の郷里茨城県の鬼怒(きぬ)川辺の農村を舞台として貧農の勘次一家の生活を描いた作品。勘次の妻お品は堕胎がもとで死に、勘次はおつぎ・与吉の幼い姉弟を抱えて必死に働くが、舅(しゅうと)の卯平(うへい)との不仲や自らの盗癖がしばしば彼を窮地に落とし込む。末尾では失火による家の焼尽が一家の結び付きを暗示して終わる。いちおうの筋立てはなされているが、それよりも、四季おりおりの自然や農村風俗、土に育(はぐく)まれ土と闘う農民の姿そのものをきわめて精細に写し取ったところにこそ、この作品の価値がある。
[大塚 博]
『『土』(岩波文庫・旺文社文庫・新潮文庫)』▽『長塚節研究会編『長塚節の人間と芸術』(1969・教育出版センター)』
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土 (つち)
長塚節の長編小説。1910年(明治43)に《朝日新聞》に連載。夏目漱石の序を付して,12年春陽堂刊。作者の郷里である鬼怒川沿いの関東平野の寒村を舞台に,そこに生きる貧農勘次一家の人間関係と生活を丹念に描く。妻のお品は自分で妊娠中絶しようとして命を落とす。娘のおつぎは卑屈な入り婿の父勘次と元自作農だった誇りを持つ祖父卯平の間に立ってかいがいしく働く。この3人を中心に幼い弟妹や地主一家との交渉を描き,いくら働いても貧しさから脱出できない小作農の悲惨な生活の実態が示されている。また村の年中行事,四季の移りかわり,自然の風物の精細な描写も特色の一つである。いわば当時の農村の厳しい現実を客観的に再現してみせた農民文学の傑作である。
執筆者:浅井 清
映画
1939年,内田吐夢監督により日活で映画化された。貧しい小作農勘次が,妻をなくしたあと,娘おつぎとともに労働に明け暮れつつも生活苦にあえぐ姿を,祖父卯平との不仲,地主との関係のなかで描いていく。シナリオは八木隆一郎,北村勉。配役は勘次が当時内田吐夢作品の常連であった小杉勇,おつぎが新人の風見章子,卯平が日活の名優山本嘉一。茨城県の農村に撮影用の農家を建て,そこにスタッフが住み込み,約1年間かけて撮影されただけあって,碧川(みどりかわ)道夫のカメラによる画面は,農村の四季をなまなましく克明にうつし出し,リアリズム映画の一頂点と目されるに至っている。内田吐夢は当時,稲あるいは米に関する記録映画を撮りたいと考えていたといわれ,そのことがこの作品に大きく反映して,自然主義リアリズムを超えるドキュメンタリズムの迫力を結実させている。例えば卯平の過失から勘次の家が全焼するシーンでは,実際の農家1軒を丸ごと燃やして,つぶさに撮影するほどに,内田吐夢の記録精神は貫徹された。すでに日本は戦時下にあり,一種の重農政策がとられはじめていた時代の作品ゆえ,国策映画に類するとの評価もあったが,そうした域を超える力があると認められ,日本映画史上の名作の一つに数えられている。
執筆者:山根 貞男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
土【つち】
長塚節(たかし)の長編小説。1910年,夏目漱石の推薦で朝日新聞に連載。作歌と写生文で鍛えたリアリズムの手法により,鬼怒川べりの農村を舞台に貧農一家の生活を克明精緻(せいち)に描いたもので,農民文学の代表的作品とされている。
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
土
つち
長塚節(たかし)の長編小説。夏目漱石の依頼で1910年(明治43)6月13日から11月17日まで「東京朝日新聞」に連載。12年5月春陽堂刊。鬼怒川沿いの自然と習俗を背景に,貧しい小作人勘次の屈折を強いられた生き方が,妻の死,舅との確執,亡妻そっくりの娘おつぎへの異常な愛情や,家の火事などを通して克明に描かれる。写生文を基調とした透徹したリアリズムによる近代農民文学の傑作。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
土
つち
長塚節 (たかし) の長編小説。 1910年発表。夏目漱石の依頼に応じて『朝日新聞』に連載した作者の唯一の長編で,郷里である鬼怒川に沿った僻村を舞台に,農民生活の実態を徹底して描写した作品。農村の四季の風物,年中行事などを背景に,小作農の貧しさ,利己心などを独自の写生文で克明にあるがままに描いて,農民文学の代表作となった。
土
つち
日本映画。 1939年日活作品。監督内田吐夢。脚本八木隆一郎,北村勉。原作長塚節。出演小杉勇,風見章子,山本嘉一。土に生きる貧しい農民の生態を,3年の制作日数を費やして重厚かつ克明に描いた文芸映画で,この年のベスト・ワンに選出された。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
『土』
長塚節
はげしい西風が目に見えぬ大きな塊をごうっと打ちつけてはまたごうっと打ちつけて皆やせこけた落葉木の林を一日いじめ通した。木の枝は時々ひゅうひゅうと悲痛の響きを立てて泣いた。短い冬の日はもう落ちかけて黄色な光を放射しつつまたたいた。\(一九一〇)
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
土
1939年公開の日本映画。監督:内田吐夢、原作:長塚節、脚色:八木隆一郎、北村勉、撮影:碧川道夫。出演:小杉勇、風見章子、山本嘉一、月見凡太郎ほか。第16回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワン作品。
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土
五行の一つ。土を象徴し、陽の土「戊土」と陰の土「己土」がある。大地そのものの意味だけではなく、生成や腐敗など土に関する作用全般を指す。季節では土用、方角では中央をあらわす。
出典 占い学校 アカデメイア・カレッジ占い用語集について 情報
世界大百科事典(旧版)内の土の言及
【四大】より
…また密教では認識作用の〈識大(しきだい)〉を加えて〈六大〉とし,一切万有・全宇宙の構成要素とする。【井ノ口 泰淳】
[西洋]
西洋では四大とは,〈四大元素four elements〉すなわち土,水,火,空気を指す。アリストテレスの哲学では,四大は乾,湿,熱,冷という四つの基本性質と配合され,土は乾と冷,水は湿と冷,火は乾と熱,空気は湿の熱の組合せに対応する。…
【土壌】より
…土壌は一般に土ともいわれ,岩石の風化産物である微細な破砕物質と植物遺体に生物作用が働いて生じたものである。岩石の風化産物そのものは微細物質の凝集体であって,水分や空気は固体の中に閉じこめられ,その構造の中には植物の根が容易に侵入できない。…
※「土」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」