先・前(読み)さき

精選版 日本国語大辞典 「先・前」の意味・読み・例文・類語

さき【先・前】

〘名〙
① ものの先端や末端。つきでてとがっている部分。はし
書紀(720)神代下(兼方本訓)「則ち、十握の劔を抜きて倒(さかしま)に地(つち)に植(つきた)てて其の鋒端(サキ)に踞(うちひくみにゐ)て大己貴(をほなむち)の神に問ひて曰(のたま)はく」
源氏(1001‐14頃)末摘花「さきの方すこし垂りて、色づきたる事、ことのほかに、うたてあり」
② 空間的にまえ。⇔あと
(イ) 進んでいく前方。まえ。
※神楽歌(9C後)早歌「〈本〉あかがり踏むな 後なる子 我も目はあり 佐支(サキ)なる子」
(ロ) 貴人の行列の先頭にたつこと。先導するもの。道をひらくもの。先駆。さきばらい。→さきを追う
※書紀(720)神功摂政元年三月(北野本南北朝期訓)「時(とき)に、熊之凝(くまのこり)といふ者有(あ)り。忍熊王(をしくまのきみ)の軍(いくさ)先鋒(サキ)と為(し)て」
(ハ) 本陣の前にある部隊。さきがけ。先陣。先鋒。
※書紀(720)天武元年七月(北野本訓)「其の将智尊精兵を率て先鋒(サキ)として距く」
③ 時間的にそれより前。その時より前。⇔あと
(イ) それが行なわれる前、また、直前。
※書紀(720)神代下(寛文版訓)「是(これ)より先(サキ)天稚彦と味耜高彦神(あちすきたかひこねのかみ)と友善(うるは)し」
(ロ) 今に近い過去のある時。現在より以前。さっき。
※古事記(712)上「故、其の八上比売は、先(さき)の期(ちぎり)の如く美刀阿多波志都(みとあたはしつ)〈此の七字は音を以ゐる〉」
(ハ) 今の世から遠くへだたった過去。むかし。→いんさき
※源氏(1001‐14頃)夕顔「さきの世の契しらるる身のうさに行末かねて頼みがたさよ」
(ニ) 「先の」の形で、かつて、また現任者の前に、ある官職にあったことをいう。先代前任。前(ぜん)
※土左(935頃)承平四年一二月二六日「かへるさきのかみのよめりける」
④ 時間的にそれより後。その時よりあと。
(イ) 今に近い将来。今度。
※滑稽本・人情穴探意の裡外(1863‐65頃)三「さきの朔日の御礼までは余程日かずもあり」
(ロ) 現在より以後。将来。未来。前途。ゆくすえ。
※柳生徳政碑文(1428頃)「正長元年よりさき者、かんへ四かんかうに、をゐめあるへからす」
浄瑠璃神霊矢口渡(1770)四「イヤ坊様精が出るよ。したが先(さキ)の知ぬ後生願ふより施餓鬼おんぞうでもじろかい」
⑤ 順番や序列が前であること。また、上であること。
(イ) 上位にあるもの。また、上位の場所。
※申楽談儀(1430)附載・魚崎御座之事「年兄は遅くともさきに着くべし。同じ年は鬮(くじ)に取るべし」
(ロ) 一番初めにしなければならない、重要なこと。専らとすること。→先とする
※観智院本三宝絵(984)下「如来の法はいづれをもみな同けれど、とく仏の位にいたる事はこの道よりさきなるはなし」
⑥ その行為の目的や相手となる人、あるいは場所。先方。相手。
※虎寛本狂言・富士松(室町末‐近世初)「是も能いかへ物では御座れども、先に鷹が御座らぬに依て、鷹のない犬斗りは入りますまい」
⑦ 数量などが、ある基準より多いこと。それ以上であること。
※魔風恋風(1903)〈小杉天外〉前「六十円から以上(サキ)ぢゃ有りませんか」
⑧ 「さいさき(幸先)」の略。
※虎寛本狂言・河原太郎(室町末‐近世初)「こなたは此酒を誰が物じゃと思ふて、其様なさきのわるい事をおしやるぞ」
⑨ 「さきもの(先物)」の略。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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