精選版 日本国語大辞典 「石」の意味・読み・例文・類語
いし【石】
せき【石】
し【石】
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人類と石との関係はきわめて長くまた密接である。さまざまな形で石を利用することは,人類の歴史の最初の段階から現代まで,絶えることなく続いているが,ここでは,石に対して人類が抱いてきた観念を中心に記述する。なお,地質学的な解説は〈岩石〉〈鉱物〉の項を,石の利用については〈石器〉〈石材〉〈石造建築〉の項を,さらにその他〈石仏〉〈石工(いしく)〉〈巨石記念物〉〈宝石〉の項も参照されたい。
木と紙と草でできた家に住み,石や煉瓦で道路をおおうことのなかった日本人にとって,石とのかかわりは建築素材としてよりも宗教的な感性に触れる部分のほうが大きい。火山性の日本列島には花コウ岩や玄武岩をはじめとするきわめて多様な岩石が存在し,あるときは美しくあるときは畏怖させるような姿を地上にあらわしている。日本人の美的・宗教的な感性はこれらの石から深い影響をうけ,移ろいやすい感動や霊感や幻想を,また時の流れにあらがおうとする歴史意識を定着させ刻みつけるためのかっこうの民衆的メディアとして石を好んできた。石の信仰伝承は多様である。樹木の根元に置かれた自然石が神の依代(よりしろ)としてまつられたり,道祖神・屋敷神・エビス神の神体として石がまつられるほか,つねに湿り気を帯びていたり,生長し子どもを生むといわれる霊石は生石(いきいし)や子産(こうみ)石,孕(はらみ)石として信仰や説話の対象になっている。また磐座(いわくら)には神が降臨してくると考えられた。石には,神座石,御座石,影向(ようごう)石,休石,腰掛石,天降り石などがあり,その出現にはさまざまな奇瑞譚や伝説が伴っている。これらの多様な石伝承は想像力の人類学的構造として二つに分けることができる。一つは石が何かの動物などの姿に見たてられ,それに形状石伝説などが伴う場合である。これには牛石,蛙石などの伝承がある。この場合にはふつう不動のもの,生命なきものとされている石が生きものの姿などを連想させることで生物と非生物の境が侵され,そこから説話形成の運動がはじまるのである。石に残された模様や刻痕が何かを連想させる場合にもこれとよく似た想像力の機構が動いている。もう一つは,石の存在そのものが言い知れぬ神秘感,霊感,畏怖感などをあたえる場合である。石は大地という異界から生まれる。民俗的想像力にとって生命はこの異界からわきあがってくるが,そこはまた生命の朽ち落ちていく冥界でもある。石は地上の世界に異界を露頭させる存在なのである。一方,石にはまた不動のものという静的なイメージも備わっているため,異界の過剰な力がこの世に奔流してきてしまうのを石がくいとめているという側面もあり,このため石は不動のなかに不思議なうごめきを感じさせるのである。そういう石の二重性を凝縮してしめしている異例な石が選ばれ,霊的な生命力を宿す〈神の石〉としてまつられる。日本人にとって石は人の世界と異界をつなぐ媒介であった。
執筆者:中沢 新一 石の信仰をその機能から見ると,(1)村境に自然石,丸石,陰陽石などを立てて外からの悪霊や災難の侵入を防ぐ防災機能(石敢当(いしがんとう),道祖神や地蔵を含む石仏など),(2)石の軽重などで吉凶を占う卜占機能(力石,重軽(おもかる)石,伺石,唸(うなり)石,囀(さえずり)石,声石,鳴石,投げ占石など),(3)結界や道しるべとなる標示機能(女人禁制の結界石,比丘尼石,縁切石,小町石,ゴゼ石,虎子石,化粧石,念仏石,座頭石,聖石,矢立石,杖石などで伝説を伴ったものが多い),(4)安産,懐妊,縁結び,治病,手向けなど祈願のための石(陰陽石,夫婦石,雌石雄石,道祖神,撫(なで)石,疣(いぼ)石,疣洗い石,子育石,雨乞石,夜泣石,鏡石,沓石,手向け石,穴あき石の奉納,賽(さい)の河原の石積みなど)があり,そのほかにもものや動物の形をした形状石(牛石,猿石,鶏石,亀石,蛙石,蛇石,獅子石,冠石,烏帽子石,碁盤石,俎(まないた)石,手形石,足跡石など)や怪異をなす石(殺生石,人取石,毒石,化け石,戻石,揺ぎ石,血や涙を流す石など),伝説にちなむ石(焼餅石,馬洗石,手玉石,背競べ石など)等がみられる。これらは相互に入り組んでおり明確には分類できないが,石の信仰は石のもつ境界性や二重性に基づいているものが多い。
→雲根志
執筆者:飯島 吉晴
日本神話には,日向に天降った皇室の祖先瓊瓊杵(ににぎ)尊が,土地の神大山祇(おおやまつみ)神から2人の娘を奉られたのに,妹の美女木花之開耶(このはなのさくや)姫だけを妻にめとり,醜い姉磐長(いわなが)姫は父のもとに返してしまったために,歴代の天皇の命が,岩のように堅固で永遠ではなくなり,花のように短くなってしまったという話が見いだされるが,石をこのように不死あるいは永生の象徴とみなす観念は,全人類に共通している。インドネシアのセラム島の神話によれば,太古に人間の形と運命につき,石とバナナとが,激しい論争をした。そして人間が,自分のように固く不死であるべきだと主張した石に対して,バナナの方が勝ったために,人間は現在の姿と死の運命を持つことになったのだという。ブラジルのカインガング族は,葬式の最後に,自分たちの身体に小石をなすりつけながら,石が不死であるように高齢でありたいという願いを唱える。イスラム教の聖地メッカのモスクの中心カーバには,大天使ガブリエルからアブラハムに与えられたと伝えられる黒石が,〈神の地上における真の右手〉としてまつられているが,このような〈神石〉の崇拝の歴史は人類とともに古い。古代の小アジアでも,フリュギアの大女神キュベレは,黒石を神体としていたが,その石が第2次ポエニ戦争の最中の前204年に,はるばるローマまでもたらされ,ハンニバルの猛攻から国を救った女神として,古代ローマ人の崇拝を受けることになった。古代ギリシアのデルフォイのアポロン神殿の奥殿には,そこが世界の中心であることを示すため,大地ガイアのへそオンファロスOmphalosをかたどった聖石が安置されていたが,このオンファロスに似た世界の中心を表す石の崇拝は,ケルト人のあいだでも盛んだったことが,フランスの諸処に残る習俗などから,確かめられている。聖石の崇拝は,日本においても縄文時代にすでに,明らかに男根をかたどった〈石棒〉の祭祀などの形で,行われていたことが確実と思われる。
執筆者:吉田 敦彦
尺貫法の容量または体積の単位。(1)容量の単位。升の倍量単位で,10斗,すなわち100升に等しい。中国の漢の時代に10斗に等しい容量の単位を斛(こく)と定め,石(せき)は120斤=4鈞(きん)に等しい質量の単位であったが,宋の末に至り5斗を斛とし,10斗を石(せき)とした。ただし5斗を斛とする習慣は古く,宋代以前にさかのぼる。日本においても大宝令(701)以降10斗は斛であったが,遅くも平安時代末期までにはこれを石と書き,“こく”と訓じていたものと思われる。日本の斛ないし石も升とともにその大きさを変じたが,1891年の〈度量衡法〉により,10斗は石(こく)となり,その大きさも約180.39リットル(dm3)と定められた。しかし,この単位も尺貫法の廃止に伴い,1959年以降法定単位ではない。なお,中国では1929年以降,石(せき)は100リットルである。(2)体積の単位。材木の体積を表すのに用い,1尺平方×10尺,すなわち10立方尺に等しく,約0.278m3である。1平方尺×2間の尺〆(しやくじめ)に代わり,大正以降尺貫法廃止まで使われた。分量単位は才(さい)(=1/10000石)である。(3)積量の単位。和船の大きさを表すための単位で,1884年制定の《船舶積量測度規則》では10立方尺(約0.278m3)と定めていた。
執筆者:三宅 史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(1)古くは「さか」とも。斛とも。容積の単位。斗の10倍,升の100倍。約180.39リットルに相当。米をはじめとする穀物の計量によく用いられ,江戸時代には俸禄や領地からの玄米収穫高(石高)に表示されるなど,重要な意味をもつ単位。(2)和船の積載量の単位。古くから,船荷は米を主としたので,船に積みこむことのできる米俵を目安として設定され,米1石の重量にもとづく単位として千石船などとよんだ。やがて船の航(かわら)(船底)の長さ・幅・深さを尺で計り,3者の積を10で割って求めるようになったが,1884年(明治17)以降は1石が10立方尺と決められた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…升の倍量単位で,10斗,すなわち100升に等しい。中国の漢の時代に10斗に等しい容量の単位を斛(こく)と定め,石(せき)は120斤=4鈞(きん)に等しい質量の単位であったが,宋の末に至り5斗を斛とし,10斗を石(せき)とした。ただし5斗を斛とする習慣は古く,宋代以前にさかのぼる。…
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【史上の度量衡】
中国の《書経》の後につけられた注疏(ちゆうそ)を見ると,〈度はこれ丈尺,量はこれ斛斗,衡はこれ斤両〉とあり,国の法制度としてこれらを等しくしておくのだといった説明がなされている。ここにいう丈,尺,斛(石とも書く)などは,ものごとを数量的に表現するための〈単位〉の呼名である。つまり,上掲の文は,度,量,衡それぞれの代表的な単位の名称を二つずつあげているものと解される。…
…サエノカミ(塞の神),ドウロクジン(道陸神),フナドガミ(岐神)などとも呼ばれ,村の境域に置かれて外部から侵入する邪霊,悪鬼,疫神などをさえぎったり,はねかえそうとする民俗神である。陰陽石や丸石などの自然石をまつったものから,男女二神の結び合う姿を彫り込んだもの(双体道祖神)まで,この神の表徴は多様である。道祖神は境界的,両義的な特性においてきわだっている。…
…なお,一定面積当りの森林の幹材積の合計は林分材積または蓄積とよばれている。 材積の単位は現在の日本ではm3が用いられているが,古くは石(こく)(10立方尺=0.278m3)が広く用いられ,ほかに1尺角,長さ12尺(2間)の角材を尺締(しやくじめ)(または尺〆(しやくじめ)),1寸角,長さ6尺の角材を才(さい)とよぶなどの単位があった。ただし尺締,才の長さは地方によって一定していない。…
※「石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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