性(gender)(読み)せい(英語表記)gender

翻訳|gender

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

性(gender)
せい
gender

インド・ヨーロッパ語やアフロ・アジア語に典型的にみられるところの、単語の文法的類別。たとえばフランス語のamiは男性名詞で「男友達」を、amieは女性名詞で「女友達」を表すといったように、単語によって男性masculine、女性feminine、中性neuterのような区別や、生物animate、無生物inanimateのような対立がある。同じインド・ヨーロッパ語でも、aに終わる単語ならかならず女性(例komnata「室」)、oに終わるなら中性(例slovo「言葉」)、子音に終わるなら男性(例stol「テーブル」)のように、性がその単語の音形(主として語尾の音)によって決まっているロシア語のような言語があるかと思うと、音形とは無関係に、個々の単語について決まっている英語(たとえばship「船」は女性、car「くるま」は人によって、または方言によって、中性ともなれば女性ともみなされる)のような言語がある。動物の自然性(父―男性、母―女性)と関係している言語もあれば、いちおう別個の言語もある。たとえば、ロシア語のdyadya(おじさん)は、音形としては女性形なのであるが、実際には男性として活用する。文法上の性は永久不変のものではなく、同じ言語のなかでも時代によっても変わることがあり、たとえばアメリカ合衆国の新聞『シアトル・タイムズ』は、1982年2月25日号で、ship(船)を女性とみなすか中性とみなすかで読者の声を多数集めた紙上討論をしているくらいである。性は名詞の文法範疇(はんちゅう)であるばかりでなく、それに関係する冠詞、形容詞、指示詞、順序数詞などにも、文法的「一致」の形で現れ、また動詞の語形変化のうえにも現れることがある。たとえば、フランス語の定冠詞には、男性のleと女性のlaがあるが、「勇気」は男性名詞なのでleがつき(le courage)、「臆病」は女性名詞なのでlaがつく(la lâcheté)。その「一致」の範囲は言語によって異なり、同じインド・ヨーロッパ語でも、ロシア語のような言語は、名詞句を構成するすべての指示詞、代名詞、形容詞などに性の一致を及ぼすが、イラン語(ペルシア語)ではそうではない。文法的性は、前述のように自然性とかならずしも関係あるわけではないから、南アフリカのバントゥー語にみられるような多数の名詞クラス(二十数種)も、その一種と考えてよい。その場合、両者に共通なのは、文中における語句のまとまりを単語の標識のうえで示す働きである。

[橋本萬太郎]

『『月刊言語 特集 性と数』第7巻第6号(1978年6月・大修館書店)』『O・イェスペルセン著、半田一郎訳『文法の原理』(1958・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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