精選版 日本国語大辞典 「熟」の意味・読み・例文・類語
こな・す【熟】
〘他サ五(四)〙
[一] 形あるものを細分する。粒状、また粉状にする。
① 細かくする。砕いて細かくする。粉砕する。
※書紀(720)欽明五年一二月(北野本南北朝期訓)「島の東の禹武邑(うむのさと)の人、椎子を採拾(とり)て熟(コナシ)喫(は)まむと為欲(す)るに」
※古今著聞集(1254)二〇「件(くだん)の上人如法経かかんとて、かうぞをこなして料紙すきけるとき」
② 土などを耕しならす。土を掘り起こして砕き細かくする。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
※俳諧・猿蓑(1691)四「かげろふや土もこなさぬあらおこし〈百歳〉」
③ 稲、麦、豆などの穀類を穂から落として粒にする。脱穀する。
※浮世草子・好色二代男(1684)四「麦こなしたるわらを重(かさね)置ける所」
※全九集(1566頃)一「夫五味は口にいり胃にをさまるといへども、是をとろかしこなして脾にわたせば」
※こゝろ(1914)〈夏目漱石〉下「それ以上の堅いものを消化(コナ)す力が何時の間にかなくなって仕舞ふのださうです」
[二] 上位に立って他を思いのままに扱う。
① 思いのままに自由に扱う。与えられた仕事、問題をうまく処理する。
※説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)上「きをば一ぽんきりたるが、こなすほうをしらずして、もとをもっておひきあれば」
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)初「色の世界のならひとて、〈略〉男をこなす取まはし」
② 思うままに処分する。片づける。征服する。
※両足院本山谷抄(1500頃)一「艸枯時分に夷をこないてくれうと思ぞ」
③ 見くだす。軽蔑する。軽く扱う。
※土井本周易抄(1477)一「上なる物は負くるもやすいぞ。下なる者は一度あやまりしたれば、取てかへされぬぞ。こなさるる程にぞ」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)三「元主人の娘のおめへを、あんまりこなした仕打だから」
④ いじめる。ひどい目にあわせる。苦しめる。〔観智院本名義抄(1241)〕
※虎明本狂言・右近左近(室町末‐近世初)「おのれはなぜにさんざんに身共をこなすぞ」
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)一〇「馬をよくのりこなす者を云た」
じゅく‐・する【熟】
[1] 〘自サ変〙 じゅく・す 〘自サ変〙
① よく煮える。また、酒などが醸成する。
※玉塵抄(1563)三「
は煮てしゅくしてただれたを云ぞ」

② (果実などが)よくみのる。うれる。じくす。
※今昔(1120頃か)二八「其の瓜只大きに大きに成て、皆微妙き瓜に熟しぬ」
※大鏡(12C前)五「この会のにはにかしこう結縁し申て、道心いとど熟し侍める」
⑤ よくととのう。調和してまとまる。
※歌舞妓年代記(1811‐15)一「夫大文字は一文字に、人を加えて是大也。二字にじゅくして見る時は、一人と書け」
[2] 〘他サ変〙 じゅく・す 〘他サ変〙
① 十分に考える。事こまかに考察する。熟考する。
※古道大意(1813)上「言の清濁、上下りまでを熟したる上にて、御書取せ遊ばさうと」
② 十分に身につける。くわしく知る。熟知する。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一一「蓋し読書学問する所以(ゆゑん)は、知識を熟し、徳行を修め、仁善の心を益し」
こなし【熟】
〘名〙 (動詞「こなす(熟)」の連用形の名詞化)
① こなすこと。細かに砕くこと。また、そのもの。
※俳諧・江戸新八百韻(1756)「夕月や一つ打蚊に又ひとつ〈米仲〉 麦のこなしにむせる旅人〈亀成〉」
② 表現をわかりやすいものにすること。かみくだいて説明すること。
※俳諧・旅寝論(1699)「我当時の流行をうかがひ侍るにも、言(ことば)の平懐(コナシ)なるをかつてきらひ給はず」
③ 体、また、身につけるものの取り扱い方。立ち居振舞いや手さばき。
※浄瑠璃・夕霧阿波鳴渡(1712頃)相の山「ぢがみふさふさいしゃうのこなし、心りはつで道中よふて」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「体の動作(コナシ)からして疲切ったやうにガッカリして居る」
④ 江戸時代の遊里語で、その場にふさわしいとりなし。上手な取り扱い方。さばき。座配。
※評判記・色道大鏡(1678)一「こなし 男女共に、よくとり入て、心のままにうけひく貌(かたち)をいふ。麦をこなすなどいふにかよふ詞(ことば)也」
⑤ 歌舞伎で、俳優が台詞によらず、主として動作で心理を表現する演技。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)二「瀬平いろいろ思入有。用水手桶の水にて水鏡を見る。無念のこなし」
⑥ いじめること。つらい目にあわせること。〔日葡辞書(1603‐04)〕
こな・れる【熟】
〘自ラ下一〙 こな・る 〘自ラ下二〙
① 砕けて粉となる。細かく砕ける。
② 食物が消化する。〔俳諧・望一千句(1649)〕
※滑稽本・七偏人(1857‐63)五「午時飯のお菜に煮た芋をせしめ込だのが、夫が貶(コナ)れてきたと見えて」
③ すっかりまじってしまい、それとわからなくなる。まざって調和する。また、とけこんで不自然でなくなる。
※歌舞伎・夢結蝶鳥追(雪駄直)(1856)三幕返し「人の噂も七十五日、こなれた時分に内会(ねえげえ)で、勝った積りで遣って見ろ」
※変痴気論(1971)〈山本夏彦〉省略「『私はあなたを愛します』というのは不自然で、〈略〉これはまだ日本語としてこなれていない」
④ 世間にもまれ、性格や考え方のかどがとれる。世間になれて円満になる。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)一「そんな所がこなれいでは本御女郎買とはいはれぬ」
⑤ 技術、知識などをすっかり身につけて思い通りに活用できるようになる。熟練する。
※ある対位(1926)〈ささきふさ〉四「附箋から外(そ)れて封筒の中央に彼の名を書いてゐる手は、何処かこなれぬといった感じの稚拙さだったので」
う・む【熟】
〘自マ四〙
① くだものが成熟する。十分実がいる。うれる。熟する。
※二度本金葉(1124‐25)雑上・五七七・詞書「子をうみてけるがもとよりうみたる梅をおこせたりければよめる」
② 十分に熱や湯気などが通る。むれる。
※正法眼蔵(1231‐53)示庫院文「御斎・御粥は、むませさせたまひたる、とまをすべし」
③ ものごとが十分にできあがる。熟する。
※浮世草子・当世芝居気質(1777)二「借銭乞にせがまれては、うんだ趣向もどこへやら」
こなれ【熟】
〘名〙 (動詞「こなれる(熟)」の連用形の名詞化) こなれること。なれまじること。消化。
※落語・京阪見物(1894)〈三代目春風亭柳枝〉「早く飯を食ふ様にさせ度(たい)と、柔けへ消化(コナレ)の良い物で養って遣るのだらう」
う・れる【熟】
〘自ラ下一〙 う・る 〘自ラ下二〙 果実が熟する。実がいる。また比喩的に、成熟する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※薪能(1964)〈立原正秋〉六「こんなに熟(ウ)れてしまったからだを十日間も独りにしておくのは」
じゅく【熟】
〘名〙 熟した柿をいう女房詞。熟柿(じゅくし)。
※御湯殿上日記‐文明九年(1477)九月二一日「おか殿よりかき、しゆくまいる」
い・る【熟】
〘自ラ四(五)〙 果実などが熟す。
※古文真宝笑雲抄(1525)二「さて秕なし一もなく、実が能入ぞ」
こな・る【熟】
〘自ラ下二〙 ⇒こなれる(熟)
う・る【熟】
〘自ラ下二〙 ⇒うれる(熟)
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