空(仏教)(読み)くう

世界大百科事典(旧版)内の空(仏教)の言及

【縁起】より

…此滅するが故に彼滅す〉と規定される。すなわちあらゆる事象は事象間の相互関係の上に成立するから,不変的・固定的実体というべきものは何一つないという仏教の〈無我anātman〉あるいは〈空śūnya〉の思想を理論的に裏づけるのがこの縁起観である。釈尊は当時のバラモン教の有我説に反対して無我を主張したが,その根拠として〈十二支縁起(十二因縁)〉説を唱えた。…

【空観】より

…すべての事物は〈空(くう)〉であると観ずる仏教の観法。〈空〉とはサンスクリットでシューニヤśūnya(形容詞)といい,一般にはあるものに他のものがないとき,前者は後者について空であると表現する。…

【金剛般若経】より

…内容は,祇園精舎における仏と須菩提(しゆぼだい)(スブーティSubhūti)の対話という形式で,般若思想の根幹を簡潔に説く。本経には〈空〉という術語は用いられていないが,その思想は〈空〉の思想といってよく,原始仏教以来追求されてきた種々の宗教的価値が固定化され,執着されることを否定し,否定を通して,より高い次元に宗教的価値を実現しようとしている。本経は,インドでは瑜伽行派によって,中国では禅宗において重んじられた。…

【大乗仏教】より

…注目すべきは,〈この経典の四行詩でも,受持・読誦(どくじゆ)・解説(げせつ)し,さらに書写すれば非常な功徳がある〉という旧仏典には見られなかった〈経典崇拝〉を強く打ち出していることである。 大乗仏教の基本的理念は,〈慈悲〉に裏打ちされた〈空(くう)〉――理論的には,あらゆるものはそれ自体の固有の実体をもたない〈無自性〉なるものであり,それゆえ実践的には,なにものにもとらわれない心で行動する〈無執着〉であれ――の立場にあるといわれる。また仏に絶対的に帰依し,かつ自己のうちに仏となりうる可能性(仏性)を認め,それを体現することを彼らは目ざした。…

【ニヒリズム】より

…つまり,ベーダ聖典を権威と認めない宗教思想を指しているのである。もう一つは仏教の〈空〉の思想である。これは,いわゆる概念的な思考(言葉)によって理解されているものごとは,ありのままの真実ではないということを主張するものであるが,ヒンドゥー教徒などからは,いっさいのものごとの存在を認めない虚無主義と曲解されたのである。…

【バナナ】より

…アジャンターの壁画には,宮殿の庭などに果樹,薬用植物,観賞植物に交じってバナナの木が植えられているのがみられる。また仏典には,バナナは葉鞘(ようしよう)が重なり合って茎を形成しているので,葉をむいていくと茎は無くなってしまうという性質に基づき,存在しているように思われるものも実体はない〈空〉なのだと説くための比喩として,〈芭蕉のごとく〉とする常套(じようとう)句もみられる。一方,《大唐西域記》の記事には,貴人の食卓に供された豪華な料理の一つに,チーズなどとともに砂糖を入れた牛乳でバナナを煮たデザートが記録されている。…

【無】より

…それは存在者の総体(近代的にいえば対象一般)に関する学であり,〈存在者はあり,無はない〉,あるいは〈無からは何も生じないex nihilo fit nihil〉という考え方に支配されてきた。したがって,深淵あるいは空虚(真空)としての無に対する強い恐怖心はあったものの,現代においてニヒリズムが顕在化するまでは,無は概して存在者一般との関係において問題とされるにとどまり,それ自体として主題化されることはなかった。 カントが《純粋理性批判》の分析論の末尾で範疇表に即して提示している無の分類もまた,対象一般という概念との関係におけるものである。…

【無我説】より

…苦であるから無我である〉という論理で,あるいは〈あらゆる存在は因と縁とにより生じたものであるから無我である〉という縁起説の立場より否定した。大乗になって,無我は空(くう)(シューニヤśunya)という語によって表現された。また人無我(生命的存在の非実体)と法無我(事物的存在の非実体)とが唱えられ,小乗は人無我のみを主張するのに対し,大乗は人法二無我を主張した。…

【竜樹】より

…南インドのバラモン出身で,若くしていっさいの学問に通じ,隠身の術により後宮に入って快楽を尽くしたが,欲望は苦の原因であると悟って出家したと《竜樹菩薩伝》に伝えられている。彼は,大乗仏教の基盤であり,〈般若経〉で強調された,〈空〉の思想を哲学的に基礎づけ,後世の仏教思想全般に決定的影響を与えた。これを評価して,中国や日本では〈八宗の祖師〉と仰がれている。…

※「空(仏教)」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android