(読み)ちゅう

精選版 日本国語大辞典 「中」の意味・読み・例文・類語

ちゅう【中】

[1] 〘名〙
① 物のまんなか。中央。また、二つのもののあいだ。あいだ。
太平記(14C後)一四「橋桁四五間中より折れて、落入る兵千余人、浮きぬ沈みぬ流れ行く」 〔張衡‐東京賦〕
② 物のうちがわ。内部。なか。
※続日本紀‐天平一三年(741)一〇月戊戌「制、内外従五位已上自今以後、侍中供奉」 〔易経‐坤卦〕
③ (形動) 程度、度合が両極端のあいだであること。大きくもなく小さくもないこと、よくもわるくもないことなど。
※続日本紀‐和銅七年(714)四月壬午「自今以後、諸国造倉率為三等、受大肆阡斛、中参阡斛、小弍阡斛
※浮世草子・西鶴織留(1694)三「是等は世帯(せたい)の事にて、中(チウ)より下の人のためにもなりぬ」 〔書経‐禹貢〕
④ どちらにもかたよっていないこと。考えや行動にかたよりのないこと。中庸。
※応永本論語抄(1420)八佾第三「礼は不奢不倹して中を得るを好とす」
※洒落本・交代盤栄記(1754)跋「かたよらざるを中(チウ)といふ、馴粋(なじみ)てかわらざるを貴(たっとし)とす」 〔書経‐大禹謨〕
⑤ 時間的経過の途中、中間をさす。
(イ) 物事を行なっているあいだの時。なかほど。
御伽草子・猿源氏草紙(室町末)「左衛門〈略〉すでに討たんとしたりしが、中(チウ)にて心をひきかへし」
(ロ) 物事が、ちょうど進行しているあいだの時。最中。
歌舞伎茶臼山凱歌陣立(1880)四幕「いやお詞の中(チウ)ながら〈略〉そりゃ何事でござりまする」
⑥ 両者のあいだにあって、なかだちや調整をすること。また、そのもの。
(イ) とりなすこと。また、その人。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)五「このふみ、ちうにて、とめなさで、おくへとをひてに、へんじ申せと、よもふかの」 〔春秋穀梁伝‐桓公九年〕
(ロ) 両者のあいだで、利をむさぼること。また、なかだちの手数料など。
※浄瑠璃・心中二枚絵草紙(1706頃)中「仕着をして取らしょふと約束ばかりで参らぬ故、わたしが、ちうでも取ったかと毎日毎夜の使立て」
⑦ (形動) ぐあいの悪いこと。そぐわないこと。また、そのさま。
※滑稽本・古今百馬鹿(1814)下「先酒にはありついたが、何だか中(チウ)でどうもおかしからぬから」
⑧ 令制で、年齢による区分の一つ。養老令では一七歳以上二〇歳以下の男女を指す。男は中男(ちゅうなん)という。〔令義解(718)〕
⑨ 横笛の夕(しゃく)の次にある孔(あな)
※徒然草(1331頃)二一九「干(かん)の穴は平調、五の穴は下無調なり。〈略〉中(ちう)の穴盤渉調、中と六とのあはひに神仙調あり」
⑩ 謡曲の階名の一つ。中音のこと。上音より低く、下音より高い音。
※世阿彌筆本謡曲・盛久(1432頃)「中 げにや故郷は雲居のよそ」
義太夫節の節章用語の一つ。上と下の中間の高さの音。
⑫ 天文関係の用語。天体の高度が最も高い所にあることをいう。最高度ということもある。
⑬ 「ちゅうぎり(中限)」の略。
⑮ 「ちゅうごく(中国)」の略。
[2] 〘語素〙 (体言に付いて)
① その中に含まれることを表わす。「空気中」「眼球中」など。
② その範囲内であること、また、その範囲全部であることを表わす。「今週中」「動物中」など。→じゅう
③ ちょうどそれをしているときであること、その状態にあることを表わす。「授業中」「故障中」など。
④ (「…中の…」と、同じ名詞をくりかえす形で) その中で最もそれに該当することを表わす。「天才中の天才」「悪妻中の悪妻」など。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉三「実に不審中(ふしんチウ)の不審じゃアないか」
[補注]意味が「宙(ちゅう)」の意味と一致するものは、「中」の表記をとった例も、「ちゅう(宙)」の項で扱った。

じゅう ヂュウ【中】

〘語素〙
① ある期間のなかのあるとき。体言に付くほか、連体詞「この」に付くこともある。
※咄本・譚嚢(1777)探幽「客、よしはらへ来て、このぢう品川へ行たが」
② その範囲のすべてにわたっていることを表わす。
(イ) 場所の広がりをもつ語に付いて、その範囲一帯に、すべてにわたって。
※天草本平家(1592)二「シモベ ドモ マイッテ goxogiǔ(ゴショヂュウ) ヲ サガシ タテマツレ ト マウシタレバ」
(ロ) 集合の元、集団の成員のすべて。「生徒中」など。
※雪国(1935‐47)〈川端康成〉「きゃうだいぢゅうで、一番苦労したわ」
(ハ) 期間を示す語に付いて、その期間を通じて、ずっと。「一日中」「一年中」「冬中」など。

ちゅう‐・する【中】

〘自サ変〙 ちゅう・す 〘自サ変〙
① まんなかに至る。また、物事がまっさかりになる。〔文明本節用集(室町中)〕
② 片寄っていないさまになる。過不及のない中道をとる。中庸の道を守る。
※続々鳩翁道話(1838)一「これを君子時に中すと申します。されば、鏡の空なるがごとく、衡の平なるがごとく」
③ ちょうどよく当てはまる。適合する。
※造化妙々奇談(1879‐80)〈宮崎柳条〉二編「諸獣類の体格、奇形万状、〈略〉要するに各(みな)其用に中する也」

ちゅう‐・す【中】

〘自サ変〙 ⇒ちゅうする(中)

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デジタル大辞泉 「中」の意味・読み・例文・類語

なか【中】

空間的に仕切られた物の内側。内部。「建物のに入る」「部屋の丸見えだ」
中央。まんなか。「込み合いますからへお詰め下さい」
二つの物事のあいだ。中間。また、中庸。「ハムをに挟む」「三日置いて返事が来る」
物の奥深いところ。また、表面からは隠れた部分。「山ので迷う」「腹のを探る」
限られた範囲に含まれる部分。一定のグループや集団の範囲のうち。「人込みを急ぐ」「仲間のでいちばん若い」「予算のでまかなう」
物事が進行している最中。また、ある状態が続いているとき。「あらしを突き進む」「お忙しいをありがとうございます」
月の半ばごろ。中旬。「の五日に出発する」
「弥生―の六日なれば」〈平家・三〉
三人兄弟の2番目。「の息子」
「―に当たるなむ姫君とて」〈・東屋〉
中等。中流。中位。「ほどのものを見せてください」
10 遊郭。特に、江戸の吉原と大坂の新町
縞縮しまちぢみに鹿の子の帯。たしかに―の風と見た」〈浄・油地獄
うち[用法]
[下接語]あい川中しょう背中ただ田中月中胴中中中野中はた原中腹の中人中日中昼中町中真ん中道中山中夜中世の中わた
[類語](1内面内部内側内方内奥/(3中程なかほど真ん中中間あわいちゅうくらい中心中央まん真ん中ど真ん中ただなかまっただなか正中せいちゅう中点しんセンター

ちゅう【中】[漢字項目]

[音]チュウ(呉)(漢)ジュウ [訓]なか うち あたる
学習漢字]1年
〈チュウ〉
物のまんなか。「中央中核中原中心中枢中点正中
二つの物の間。また、上下・大小などに分けたときの、間のところ。「中位中音中間中佐中耳中旬中農中略中流
いずれにも偏らない。「中道中庸中立中和
一定の空間・時間の範囲のうち。「暗中意中渦中懐中寒中眼中忌中宮中在中山中車中術中掌中陣中水中忙中夢中
一定の範囲の全体。「年中ねんじゅう二六時中
物事の進行のなかほど。「中座中止最中途中道中
仲間うち。「社中女中連中れんちゅう・れんじゅう
中心をずばりと突き通す。あたる。「中毒中風的中南中命中百発百中
中国。「中華日中・米中・訪中
10中学校」の略。「中卒
〈なか〉「中庭中程背中野中人中夜中
[名のり]かなめ・ただ・ただし・な・のり・よし
[難読]中将すけ中務なかつかさ就中なかんずく

ちゅう【中】

[名]
物の大きさが、大と小との間であること。「サイズの衣服」
程度・価値・等級・序列などがなかほどであること。良くも悪くもないこと。「クラスでの上くらいの成績」
本を3冊に分けたときの第2冊。中巻。
中学校」の略。「小・・高の一貫教育」「付属
どっちにもかたよらないこと。中庸。「を失わない」「を取る」
中国」または「中華人民共和国」の略。「日会談」
ある物事をしている途中。
「お話の―だが」〈里見弴・安城家の兄弟〉
[接尾]名詞に付く。
あるもの内部にあることを表す。「空気の酸素」
ある範囲・限界を区切る気持ちを表す。「今週」「夏休みの宿題」
現にその活動をしていることを表す。「授業」「工事
その範囲の中に含まれる事柄であることを表す。「不幸の幸い」「秀才の秀才」

じゅう〔ヂユウ〕【中】

[名]ある期間のうちのある時。
こん―付け(=手紙)をよこしたあまよ」〈滑・浮世床・初〉
[接尾]名詞に付いて、その語の示す範囲全体にわたるという意を表す。
期間を表す語に付いて、その間ずっとという意を表す。「一日」「一年
空間・範囲を表す語に付いて、その区域、あるいはその範囲全体にわたる意を表す。「世界」「日本
集団を表す語に付いて、その集団の成員のすべての意を表す。「学校」「親戚

なか【中】[浜松市の旧区名]

浜松市の旧区名。令和6年(2024)に区の一部・区・区・西区と統合され中央区となった。

なか【中】[広島市の区]

広島市の区名。平和記念公園広島城跡がある。

なか【中】[横浜市の区]

横浜市の区名。港の見える丘公園などがある。

なか【中】[名古屋市の区]

名古屋市の区名。名古屋城がある。

なか【中】[堺市の区]

堺市の区名。大阪府立大学がある。

なか【中】[岡山市の区]

岡山市の区名。市の中央部に位置する。

じゅう【中】[漢字項目]

ちゅう

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改訂新版 世界大百科事典 「中」の意味・わかりやすい解説

中 (ちゅう)
zhōng

儒教哲学の中心概念の一つ。《書経》には政治の要諦としてしばしば説かれている。中庸と同じ意味に用いられることもあるが,ふつう,中庸は徳の名,中はそれを根拠づける形而上的な道の名として区別せられる。それは《中庸》の〈未発の中〉(現象世界に発現する以前の中)の説,またそれを極度に重視する朱子学の説によるのである。朱子はそれを聖人から聖人へと伝えられた〈まことに其の中を執れ〉という教えと結びつけた。つまり〈道統〉の説と結びつけた。中は要するに〈まんなか〉であり,過ぎたると及ばざるとの無きこと,偏らざること,と解釈されているが,しかしそれは決して固定的・消極的なものでなく,計器の針が揺れの末にしかるべき点に落ち着く,そのような点が中である。朱子はそれを〈恰も好き処〉といった。朱子学では中には〈在中〉と〈時中〉の2種が区別せられる。在中(中に在ること)は未発の中で偏らぬという訓詁が当たり,時中は已発における中,つまり実践においてその時その時の行為が中を得ていること(中庸の徳)で,過不及なしという訓詁がそれに当たる。
執筆者:

中(旧町) (なか)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中」の意味・わかりやすい解説


なか

兵庫県中南部、多可郡(たかぐん)にあった旧町名(中町(ちょう))。現在は多可町の南東部を占める一地区。1924年(大正13)中村が町制施行。2005年(平成17)中町は加美(かみ)、八千代(やちよ)2町と合併して多可町となる。国道427号が通じる。古くから郡の行政中心地。中央を流れる杉原(すぎはら)川沿いは比較的平坦(へいたん)な河谷盆地となり、酒米の産地で、山田錦(にしき)発祥の地として知られる。杉原川の水を利用した播州織(ばんしゅうおり)が基幹産業で、旧町域の就業人口の75%が繊維産業に従事し、南方の西脇(にしわき)市に次ぐ織物の町である。北部の妙見山(みょうけんさん)(692メートル)山麓(さんろく)は古墳が多く、また北播磨余暇村公園や牧野大池キャンプ場がある。西部に1991年(平成3)完成した糀屋ダム(こうじやだむ)と翠明湖がある。なお、農村歌舞伎(かぶき)の「播州歌舞伎」がいまも受け継がれている。

[二木敏篤]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中」の意味・わかりやすい解説


なか

兵庫県中部,多可町東部の旧町域。加古川の支流杉原川中流域にある。 1924年町制。 2005年加美町,八千代町と合体して多可町となった。中心集落の中村は播磨から京へ通じる街道の要地で中村郷と呼ばれた。西脇市に近いため,同市とともに播州先染織の中心的産地として知られる。周辺の山地は古墳の多いことで有名。


なか

(1) 義太夫節浄瑠璃一段のうち, (くち) よりも事件がやや複雑になる部分。特に特徴的な「中」には呼称のついている場合がある。『義経千本桜』2段目の「渡海屋・大物浦」の場における「中」は「幽霊」,4段目の「川連法眼館」の「中」は「八幡山崎」などと呼ぶ。 (2) 義太夫節の節章の一つ。「ちゅう」ともいう。太夫の声の出し方は中・ウ・ハルに大別されるが,「中」は落ち着いた相対的に低い音をさす。一または二の音といわれる。


ちゅう
Zhong

儒教の徳目の一つ。中正は古来からの徳目であるが,これを哲学的に深化して心の「中」の状態にまで内面化したのが『中庸』である。宋の朱子は「中」を「理」によって解釈して『中庸章句』をつくった。

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岩石学辞典 「中」の解説

メソ

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【義太夫節】より

…竹豊両座の退転と再興から,宮地芝居へ興行の場は移った。そして近松半二菅専助らがわずかに新作を書くにとどまって,旧作のくりかえし上演が中心となる。しかし,これらの旧作は名人上手のくふうの積みかさねで磨きあげられた。…

【キリ(切)】より

…謡事の一種。七五調韻文体の7~11句から成る,中音域を主とした旋律のすくない楽曲。初句と終句は繰り返されるのが普通。…

※「中」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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