デジタル大辞泉
「文」の意味・読み・例文・類語
もん【文】
1 《中国、唐の開元通宝1枚の重さが1匁あったところから》銭貨の個数・貨幣単位。1貫の1000分の1。「早起きは三文の徳」
2 《寛永通宝の一文銭を並べて数えたところから》足袋底の長さの単位。ふつう、1文は約2.4センチ。靴・靴下にも用いる。
3 文字。また、文章。ぶん。
「史書の―をひきたりし」〈徒然・二三二〉
4 呪文。経文。
「口に―を呪したるに」〈太平記・二四〉
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あや【文・紋・綾・絢】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- [ 一 ] ( 文・紋・綾 )
- ① ななめに線が交錯している綾織りの模様。斜線模様。また、一般に物の面に現われたさまざまな形、模様をいう。〔十巻本和名抄(934頃)〕
- [初出の実例]「水の面(おも)にあや吹き乱る春風や池の氷を今日はとくらむ〈紀友則〉」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)春上・一一)
- ② ( 模様や色彩の美しさから ) いろどり。美しさ。見事さ。おもむき。
- [初出の実例]「頭(かしら)に似合ぬ振袖の、綾(アヤ)の小袖の模様さへ」(出典:読本・昔話稲妻表紙(1806)三)
- 「彼の整へる面(おもて)は如何なる麗はしき織物よりも文章(アヤ)ありて」(出典:金色夜叉(1897‐98)〈尾崎紅葉〉前)
- ③ 物事の筋目。条理。理屈。理由。→あやない。
- [初出の実例]「あなさがな。などて寝られざらむ。もし、あややある」(出典:平中物語(965頃)二七)
- ④ 文章や言葉のかざり。修辞。いいまわし。表現の仕方。
- [初出の実例]「ことば書、その書やう、和にならひなし。漢には其綾(あや)も有事となり」(出典:俳諧・三冊子(1702)白双紙)
- ⑤ 音楽の曲節。ふしまわし。節奏。
- [初出の実例]「声のあやあくめもなひぞねり雲雀(ひばり)〈良徳〉」(出典:俳諧・鷹筑波(1638)二)
- ⑥ 木や草のかたい筋。葉脈。木目。
- [初出の実例]「薪を折るに、其の木の理(アヤ)に随ふときには、柁に作れり」(出典:石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)六)
- ⑦ よごれ。汚点。しみ。→あや(文)が抜ける。
- [初出の実例]「座はいちとぜひなひきざし也お手におぼえずせっしゃうをするあや有」(出典:評判記・野郎大仏師(1667‐68)松本小太夫)
- ⑧ 両者の間に立って連絡をとる人。仲介人。仲裁人。とりもち役。
- [初出の実例]「Ayani(アヤニ) ナル〈訳〉和合させるために、不和になっている人たちの間で仲裁人となる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
- ⑨ 長期にみた相場の動きの中での特別な理由のない小さな変動。「あや押し」「あや戻し」
- [ 二 ] ( 綾・絢 )
- ① 綾模様を織り出した絹。綾織りの絹地。
- [初出の実例]「錦(にしき)綾(あや)の 中につつめる 斎(いは)ひ児も 妹にしかめや」(出典:万葉集(8C後)九・一八〇七)
- ② 「あやとり(綾取)」の略。
- [初出の実例]「遣り手が綾いく度取っても猫俣」(出典:雑俳・柳多留‐三二(1805))
- ③ 「あやだけ(綾竹)」の略。
- ④ 「あやおり(綾織)④」の略。
- [ 2 ] =あやのこうじ(綾小路)[ 一 ]
ふみ【文・書】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① 文書・書物など、文字で書きしるしたもの。かきもの。
- (イ) 漢文の典籍・経典の類をいう。
- [初出の実例]「是の時に書生(フミまなふるひと)三四人を選びて観勒に学び習は俾む」(出典:日本書紀(720)推古一〇年一〇月(岩崎本訓))
- (ロ) 一般に、文書・記録・日記などの類をいう。
- [初出の実例]「倉山田麻呂臣進みて三の韓(からひと)表文(フミ)を読み唱ぐ」(出典:日本書紀(720)皇極四年六月(図書寮本訓))
- (ハ) 漢詩または漢詩文をいう。
- [初出の実例]「是に月の夜に清談(ものかたり)して不覚(おろか)に天暁(あ)けぬ。斐然(フミつくる)(〈別訓〉うたつくる)藻(みやひ)、忽に言に形る」(出典:日本書紀(720)継体七年九月(前田本訓))
- 「今日はいかで旅の泊とても、春を惜しまざらんとて、人々ふみ作る」(出典:高倉院厳島御幸記(1180))
- ② 学問。特に中国の文学・漢学をいう。→ふみの道。
- [初出の実例]「御ふみのことにつけてつかひ給ふ大内記なる人の」(出典:源氏物語(1001‐14頃)浮舟)
- ③ 絵図(えず)。また、文字。八卦の図のようなものをいうか。河図洛書(かとらくしょ)のたぐいか。
- [初出の実例]「図(ふみ)負へる亀一頭献らくと奏し賜ふ」(出典:続日本紀‐天平元年(729)八月五日・宣命)
- ④ 手紙。書簡。書状。近世以後、特に恋文(こいぶみ)をいう場合が多い。艷書(えんしょ)。
- [初出の実例]「京にその人の御もとにとてふみかきてつく」(出典:伊勢物語(10C前)九)
- ⑤ 能小道具の一種。大奉書を白紙のままで折りたたんで書状としたもの。また、シテ、まれにワキまたはツレが手紙を読むことをいう。
- ⑥ 紋所の名。結び文を図案化したもの。開き文、結び文などがある。
開き文@結び文
- ⑦ 「ふみ(書)のつかさ」の略。
- [ 2 ] 「おふみ(御文)[ 二 ]」「おふみさま(御文様)」の略。
- [初出の実例]「源空は起請お弟子は文を書き」(出典:雑俳・柳多留‐一二八(1833))
ぶん【文】
- 〘 名詞 〙
- ① 外見を美しく見せるためのかざり。もよう。あや。
- [初出の実例]「抑夫上代之篇。義尤幽而文猶質」(出典:新撰和歌(930‐934)序)
- [その他の文献]〔礼記‐楽記〕
- ② 文章。また、詩文。転じて、それらを集めた書物。
- [初出の実例]「文(ぶん)を敷き句を構ふるに」(出典:古事記(712)序)
- ③ 文学。学問。学芸。また、これらを励み修めること。
- [初出の実例]「文にも非ず、武にもあらぬ四宮に、位を越られて」(出典:保元物語(1220頃か)上)
- [その他の文献]〔書経‐大禹謨〕
- ④ みやびやかなこと。はでなこと。文雅。
- [初出の実例]「故に古事記・日本紀の歌よりは文にして、古今集の歌よりは質なり」(出典:国歌八論(1742)歌源)
- [その他の文献]〔論語‐雍也〕
- ⑤ 格言。成語。また、典拠。
- [初出の実例]「非常の断は、人主専らにせよと云ふ文有り」(出典:保元物語(1220頃か)中)
- ⑥ いれずみをすること。いれずみで飾ること。
- [初出の実例]「仲雍髪を断(きっ)て身を文(ブン)にす」(出典:造化妙々奇談(1879‐80)〈宮崎柳条〉二編)
- ⑦ 「ぶんかん(文官)」の略。
- [初出の実例]「五衛府。軍団及諸帯レ仗者。為レ武。自余並為レ文」(出典:令義解(718)公式)
- ⑧ 文法上の言語単位の一つ。文章・談話の要素。単語または文節の一個または連続で、叙述・判断・疑問・詠歎・命令など話し手の立場からの思想の一つの完結をなすもの。定義には諸説ある。西洋文法では、主語・述語を具えることが文成立の条件とされることがあるが、日本文法では必ずしもそれによりがたい。文章。センテンス。〔広日本文典(1897)〕
もん【文】
- 〘 名詞 〙
- ① 仏教の経文の一節や呪文のこと。
- [初出の実例]「諸の智徳名僧おどろきあやしみて、各文を出て問心みるに」(出典:観智院本三宝絵(984)中)
- 「虚空に向ひ目を眠り、口に文(モン)を呪したるに」(出典:太平記(14C後)二四)
- ② 経文以外で、よりどころとなるような、権威ある文章・文句。また、文字、文句。
- [初出の実例]「其間にあやしく妙なる事多かれども、文におほかれば、しるさず」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
- ③ 銭貨の個数単位。のちに貨幣単位にもなった。中国に始まり日本にそのまま伝えられ、明治四年(一八七一)新貨条例により廃止された。もともと、唐の開元通宝一枚の重さが、一匁(もんめ)あったところからいう。一貫の千分の一に当たる。
- [初出の実例]「輸調銭参拾陸文」(出典:正倉院文書‐神亀三年(762)山背国愛宕郡雲上里計帳)
- 「一つは弐文、二つは三文に直段を定め」(出典:浮世草子・日本永代蔵(1688)二)
- ④ ( 一文銭を並べて数えたところから ) 足袋の底の長さをはかる単位。一文は約二・四センチメートル。靴や靴下などにも通じて用いる。
- [初出の実例]「美人両足は、八文(やモン)七分に定まれり」(出典:浮世草子・好色二代男(1684)七)
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普及版 字通
「文」の読み・字形・画数・意味
文
常用漢字 4画
(旧字)
4画
(異体字)
7画
[字音] ブン・モン
[字訓] あや・もよう・かざり・ふみ
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[古辞書の訓]
〔名義抄〕 ヒカリ・カザル・モトロク・モトロカス・フミ・アヤ・オゴク・マダラ・ウルハシ 〔字鏡集〕 ヒカリ・マダラク・オモフ・マダラ・ウルハシ・アヤ・モトロク・オゴク・フミ・カザル・ヱガク
[部首]
〔説文〕に(斐)・・の三字を属し、別に部を立ててを属する。みな文彩の意がある。〔玉〕部に・斌など四字を加える。斌は彬(ひん)の異文である。
[語系]
・(紋)・・馼・紊miunは同声。馼(ぶん)は赤(せきりよう)縞身、目は黄金のごときものであるという。紊はまたbiun、(紛)phiunと声義近く、これらはもと一系の語である。
[熟語]
文案▶・文按▶・文移▶・文意▶・文▶・文▶・文運▶・文英▶・文苑▶・文化▶・文華▶・文雅▶・文会▶・文絵▶・文▶・文格▶・文学▶・文官▶・文巻▶・文▶・文軌▶・文綺▶・文義▶・文教▶・文業▶・文禽▶・文錦▶・文具▶・文契▶・文芸▶・文傑▶・文献▶・文件▶・文券▶・文軒▶・文語▶・文巧▶・文考▶・文行▶・文稿▶・文豪▶・文采▶・文彩▶・文才▶・文綵▶・文冊▶・文思▶・文詞▶・文士▶・文史▶・文事▶・文辞▶・文質▶・文車▶・文弱▶・文酒▶・文儒▶・文▶・文象▶・文章▶・文情▶・文場▶・文飾▶・文燭▶・文縟▶・文臣▶・文身▶・文人▶・文陣▶・文声▶・文星▶・文勢▶・文石▶・文籍▶・文祖▶・文▶・文組▶・文宗▶・文▶・文藻▶・文則▶・文体▶・文壇▶・文談▶・文治▶・文致▶・文冢▶・文牒▶・文鎮▶・文通▶・文典▶・文徳▶・文牘▶・文派▶・文貝▶・文旆▶・文▶・文範▶・文繁▶・文備▶・文筆▶・文▶・文▶・文武▶・文舞▶・文布▶・文府▶・文物▶・文柄▶・文炳▶・文圃▶・文簿▶・文氓▶・文貌▶・文房▶・文報▶・文鋒▶・文墨▶・文朴▶・文魔▶・文脈▶・文明▶・文名▶・文盲▶・文雄▶・文友▶・文囿▶・文遊▶・文誉▶・文螺▶・文理▶・文吏▶・文履▶・文律▶・文流▶・文林▶・文礼▶・文句▶・文字▶・文書▶
[下接語]
案文・移文・遺文・懿文・郁文・一文・逸文・允文・韻文・衍文・艶文・華文・雅文・回文・廻文・学文・漢文・願文・綺文・戯文・経文・今文・金文・錦文・空文・契文・芸文・檄文・欠文・言文・原文・古文・互文・公文・甲文・弘文・好文・高文・構文・告文・国文・左文・祭文・彩文・作文・散文・死文・斯文・詩文・時文・主文・守文・呪文・祝文・修文・文・重文・述文・序文・昭文・掌文・上文・冗文・条文・縄文・織文・縟文・深文・人文・崇文・正文・成文・省文・誓文・節文・文・全文・前文・藻文・達文・脱文・単文・地文・弔文・程文・綴文・天文・典文・篆文・同文・能文・佩文・売文・白文・博文・跋文・斑文・煩文・繁文・秘文・碑文・美文・不文・浮文・舞文・複文・黻文・秉文・炳文・変文・文・朴文・本文・無文・名文・明文・訳文・右文・雄文・律文・礼文・例文・麗文・儷文・弄文・勒文・論文・和文
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文 (ぶん)
日常生活では〈文〉と〈文章〉とをあいまいに使うことが多いが,言語学などでは,英語のsentenceにあたるもの(つまり,文字で書くとすれば句点やピリオド・疑問符・感嘆符で締めくくられるおのおの)を文と呼び,文が(あるいは後述の〈発話〉が)連結して内容のあるまとまりをなしたものを文章(テキスト)と呼んで区別する。文とは何かについては,文法学者の数だけ定義があるといわれるほどで,とりわけ日本の国語学では,ただ定義を論じるのみならず,文の文たるゆえんを問おうとするようないささか哲学的な論議も従来から盛んに行われてきた。近年の言語学では,論議を整理すべく,(話し言葉の場合)発せられる1回1回の具体的な音声そのものは文と呼ばずにこれを〈発話utterance〉と呼び,発話の背後に想定しうる抽象的なものとして文をとらえる,という考え方が有力である。たとえば,いろいろな人がいろいろな場面で〈この絵はみごとだ。〉と発することがあろうが,そのそれぞれの発話は,厳密にいうと,音声の細かな特徴がみな少しずつ違うはずで,また具体的に意味するところ--〈この絵〉が具体的に何を指すか,またそう発話する意図は何か(たとえば,買いたいという意思表示か,素朴に所感を述べただけか,暗に他の絵をけなすつもりか)など--にも違いがあろう。が,こうした違いにもかかわらず,これら各発話を音声についても意味についても抽象して,〈この絵はみごとだ。〉という同じ一つの文(抽象物)を背後に想定することができる,と考えるのであり,この文・発話両概念の区別は確かに有益である。もっとも,それにしても,その文という概念をいかに定義するのかが,なお論議の対象になりうるわけだが,おおむね,〈特有のイントネーション(下降や上昇などいくつかの型が抽象される,そのいずれか)で終わること〉および〈完結性(・統一性)があること〉が文の要件としてしばしば指摘されている。
このほか,文の特徴として〈典型的には主語・述語を含む〉という点もあげられようが,ただし,これは文が成立するための要件では決してない。日本語では主語を明示しない文は珍しくないし,英語などヨーロッパ諸言語の文も常に主語・述語を備えているとは限らない。たとえば〈痛い!〉〈Why?〉のように一語で文をなす場合もあるわけで,これを一語文という。
文を構成する成分で,それ自身も文のような性質をもつもの(特に,それ自身が主語・述語を含むもの)を〈節clause〉という(なお,節のことをも文ということがあり,逆に,文全体のことをも節ということがある)。一文を構成する複数の節が構造上対等な関係にあれば,それらを〈等位節〉といい,主従関係にあれば,それぞれを〈主節(主文)〉〈従属節(副文)〉という。従属節にも種々のものがあり,それぞれその機能等によって名詞節,副詞節,関係節等と呼ばれる。節を含まない文(文全体のことをも節というならば〈ただ一つの節から成る文〉ということになる)を〈単文simple sentence〉といい,等位節を含む文を〈重文compound sentence〉,主節・従属節を含む文を〈複文complex sentence〉ということがある。たとえば〈兄が走る。〉は単文,〈兄が走り,弟が追う。〉は重文,〈兄が走れば,弟が追う。〉は複文である。一つの文が多くの節を含み,等位関係や主従関係が幾重にも組み合わせられていることもしばしばである。また,文は,その意味によって,平叙文・疑問文・命令文・勧誘文・感嘆文などに分けることもできる。
文の語順・構造,その他文の有する文法的諸性質に関する研究をシンタクスという。シンタクスは,言語学の中でもとりわけ重要な分野のはずでありながら,長い間研究が不十分であったが,ようやく近年,〈生成文法〉という理論の誕生・発展によって急速に充実してきた。この理論では,文はいわば無定義用語であって,その構築する文法規則の体系によって生成されるものがすなわち文にほかならない(あるいは,文法体系を公理系と見た場合,文は派生される定理にあたるものである)という実にドライな思考法をとり,これがむしろめざましい研究成果をもたらしているといえる。
執筆者:菊地 康人
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文(ぶん)
ぶん
文法学上の基本単位。一つのまとまった内容を表し、末尾に特定の文法形式(活用語の終止形や終助詞など)を有し、話しことばでは音の切れ目があり、特殊な音調(疑問文でのしり上がりなど)が加わり、書きことばでは「。」(句点)がつく。日常語では「文」と「文章」とを混同して用いるが、文法学では、文章は一つ以上の文が連なった言語作品をさし、文は文章を構成する下位単位をさす。
文の定義は古来多くの学者によって試みられているが、文と判定されるべきすべての言語形式を説明しうる十全な定義は、まだない。古くからの「主語・述語の備わったもの」式の定義では、主述完備でも文とならないもの(従属節)の存在や、「アッ。」とか「犬!」とかの類(一語文)や「早くいけ」(命令文)など、主述の欠けるものの処理に困る。国語学者の橋本進吉は、文を、内容的にはまとまった思想の表現と規定したうえで、前後に音の切れ目があり、終わりに特殊の音調が加わるという外形的規定を与えた。一方、山田孝雄(よしお)は、「統覚作用による統合」を文成立の条件とした。山田の心理主義的な文成立論は、日本文法学界での長い、陳述・文成立論争の契機となった。その陳述論争を踏まえ、渡辺実は、「統叙」で整えられた叙述内容を言語主体の断定、疑問、訴えなどの「陳述」が包むという重層的な構文的職能の下に文成立を考える方向を示した。
日本での文本質論が早くから文末の切れ続きに注目した文成立論を軸に展開されてきたのは、日本語の文構造上の特徴に深くかかわろう。日本語の文は、概略、事柄を述べる部分、表現主体の判断を述べる部分、受容者への呼びかけの部分が、この順番で並び成立する。たとえば「弘ガ来ルラシイヨ。」という文なら、「弘ガ来ル」という事柄を、話者が「ラシイ」という程度の確かさで判断し、聴者に「ヨ」と呼びかけている文である。こうした各部分を担う文法形式(語)の承接の仕方には一定の規則があり、また、文末となりうる文法形式は限られている。この諸形式の機能と承接、とくに文末を担いうる形式への注目が文論の中心的な課題となっている点は日本の文法学の特色といえる。
なお、生成文法の考え方では、文を一義的には定義せず、一定の文法規則により生成されるものを文とする。また、従来は文法学が直接対象とする最大の単位は文だったが、近年では文よりも大きい範囲を問題にするようになりつつあり、そこから文規定を見直す動きも出てきている。
[清水康行]
文(もん)
もん
穴のある銭貨を数える単位。唐の開元通宝1枚の重さが1匁(もんめ)であったところから、わが国でもそのまま銭1枚を1文と呼称するようになったといわれ、銭1000文をもって1貫と称する。中世までの貨幣はほとんど銭中心であったが、江戸時代に至って貨幣制度が整備されると、金・銀貨幣に対する補助貨幣的な存在となり、それまでの銅製にかわって鉄製の銭も鋳造されている。
また実際生活では、銭1貫は960文とし、100文も96文で100文として通用させ、とくに100文の場合のみ長百(ちょうひゃく)とよんでこれを区別している。これは、100文は5の倍数でしか分割できないのに対し、96文の場合は3と2の倍数で細かく分割が可能であることから、96文のほうが少額流通貨幣として使用に便利であるためといわれる。明治4年(1871)の新貨条例ののちも、一時期10文で1銭に通用させたこともある。また、足袋(たび)底の長さを測るのに、一文銭を並べて数えたところから、足袋や靴、靴下などの履き物の大きさの単位ともなったが、この場合の1文は尺貫法の8分(ぶ)(約2.4センチメートル)に相当する。
[棚橋正博]
文(ふみ)
ふみ
書物や文書など文字で書き記してあるものの称。一般的には、文書、記録、日記の類、および漢文の典籍などをさす場合が多く、「人の才能は、文あきらかにして、聖(ひじり)の教を知れるを第一とす」(徒然草(つれづれぐさ))などとある。また漢詩、漢文をさし、「思ふままに答へたる対策のふみども、おもしろく興ありて」(うつほ物語)などとあり、さらに、手紙、書簡、書状のことをいい、「京に、その人の御もとにとてふみ書きてつく」(伊勢(いせ)物語)などとある。近世になると、手紙でもとくに恋文をいう場合が多くなる。
学問のことでもあり、平安時代、男性は漢詩・漢文など中国の文学を学ぶことが重要であったため、学問といえばすなわち漢学のこととなり、したがって「文」は中国の文学、漢学をさすものであって、「御ふみのことにつけてつかひ給(たま)ふ大内記なる人」(源氏物語)などとある。
令(りょう)制の官司の一つで、書籍の保管や図書の書写などを行う図書寮(ふみのつかさ)や後宮の書司(ふみのつかさ)の略称としても用いられた。
[佐藤裕子]
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文【ぶん】
文法単位の一種。定義は一定しないが,外形的には,前後に必ず音の切れ目があって,終りに特殊な音調(イントネーション)があるとされ,内容的には,一つの統一した思想を表現し,完結性をもつものとされる。1語または2語以上の連結からなる。
→関連項目シンタクス|生成文法|単語|発話
文【もん】
(1)銭貨を数える単位。古代から使用され,江戸時代には寛永通宝1枚を1文とし,また金,銀,銭の3貨の交換基準は,金1両=銀60匁=銭4貫文と定められていた。(2)足袋(たび)の底の長さ(親指の先からかかとまで)をはかる単位。1文銭を並べてはかったのに由来。曲尺(かねじゃく)の0.8寸を1文とする。
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文
ぶん
sentence
単語とともに言語の基本的概念であるが,その定義はさまざまで定説はない。日本でも,陳述,統一性,完結性などを有するものと説かれてきたが,現在では,音形の面でイントネーションによってまとめられ,意味の面で完結しており,文法面で一つの独立した統合体となっているものといってよいであろう。一方,変形生成文法においては,文とは何かを問わず,いきなりS (センテンス) を立て,Sから一定の規則で生成されるものをすべて文としている。伝統的に,内容のうえから,平叙文,疑問文,命令文などに分類され,また,形のうえから,単文 (主述関係を1つだけ含むもの) ,重文 (単文が2つ以上等位接続詞で結合されたもの) ,複文 (従属節を含むもの) に分類される。
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文
もん
銭貨の貨幣単位。1000文を1貫文とする。10文を1疋ともいう。九六銭(くろくせん)のように100文未満の一定数を100文として通用させる省陌(せいはく)という慣行も広く行われた。銭貨1枚1文が原則だったが,江戸時代にはそれ以上の額面で通用する銭貨も発行された。1871年(明治4)円・銭の単位が制定され,貨幣単位としての使用を終えた。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
文
プログラム内で何らかの処理を行う、ひとつの完結した命令のこと。ステートメントとも呼ぶ。プログラムは文の集まりで構成されているともいえる。
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の文の言及
【面子】より
…この〈礼〉の外面的要素が強調されたものが面子の重視に結びつくのである。いま一つは,春秋戦国期から存在する文(あるべき理想形)と実(現実)の二元論的思考である。《春秋》の記事において現実には天子の軍が敗北したのに,それをあるべからざることとして表現方法を変えるのは,面子の重視であり実を認めつつ文に固執するものにほかならない。…
【足袋】より
…50歳以下は病身者のみ願い出ることによって許されるという〈足袋御免〉の制もあり,これらは尚武と素足を礼とする風習による。室町時代から染韋(革)の足袋が用いられるようになり,桃山時代には男性は小桜文様の革足袋を用いた。 木綿の足袋は長岡三斎の母が茶事に出るごとにはかせたのが始まりという。…
【貫】より
…(1)通貨の単位。中国の宋代のころに始まる通貨の単位で,銭貨1000文(もん)のことをいう。この名称は銅銭1000枚の穴に緡(びん)(鏹(きよう)ともいい,ぜにざしのこと)を貫いて束ねたことに由来し,日本でも唐銭,宋銭の流入に伴って室町時代前後から用いられるようになった。…
【散文】より
…定型や韻律をもった文章,すなわち韻文に対して,定型や韻律にとらわれず,屈折自在で端的に事実を記述する文章をいう。英語のプローズproseにあたるが,その語源はラテン語プロルススprorsusで,〈まっすぐ〉〈平明〉の意である。…
【シンタクス】より
…言語学の術語。[単語]が結びついて[文]を構成する場合の文法上のきまり,しくみ。また,それについての研究,すなわち文の文法的構造の研究。…
【生成文法】より
…1950年代中ごろにアメリカの言語学者[N.チョムスキー]が提唱し,以後,各国の多くの研究者の支持を集めている,文法の考え方。文法とは,〈その言語の[文](文法的に正しい文)をすべて,かつそれだけをつくり出す(しかも,各文の有する文法的な性質を示す構造を添えてつくり出す)ような仕組み[=規則の体系]〉であるとし,その構築を目標とする。…
【日本語】より
…また,戦後日本の経済力が伸長するにつれてアメリカ,オーストラリア,アジア諸国などの間で,日本と日本語への関心がしだいにに高まってきていると言えよう。
〔現代日本語〕
以下,世界の他の諸言語との比較という観点も含みつつ,現代日本語の主だった特色につきまず略述したのち,さらに音声・音韻,文法等個々の面に即して,やや詳しくまたある部分は体系的な記述・説明を行う。
【概説――日本語の特色】
[音声・音韻面]
日本語では音節(拍)の構造が〈子音+母音〉を基調としているので,母音で終わる〈開音節〉の語が多い。…
【文型】より
…種々の具体的な言語表現(発話)から抽象して設定される,[文]の構造上のいくつかの類型をいう。(1)文の構造は,これを構成する成分(主語,述語,修飾語,独立語など)間の関係において考えられるが,これら各成分の結びつき方に種々の類型が認められるわけで,英文法で説くS+V,S+V+C,S+V+O,S+V+O+O′,S+V+O+Cという五つの型などもその一例である(Sは主語,Vは動詞,Cは補語,Oは目的語)。…
【文章】より
…一つの[文](センテンス)またはある脈絡をもって二つ以上の文の連続したものが,一つの完結体として前後から切り離して取り上げられるとき,これを文章という。文もそれ自体完結したものではあるが,文章の脈絡の中においては,低次の部分をなすにすぎない。…
【文節】より
…日本語文法の用語。〈[文]を,言語として不自然にならない限りで,最も細かく区切った場合の各部分〉などと定義される。…
【文法】より
…
【概説】
[文法とは]
一般に文法と呼ばれているものは,当該の言語における,(1)単語が連結して文をなす場合のきまり(仕組み)や,(2)語形変化・語構成[派生語や複合語のでき方]などのきまり(仕組み),あるいはまた(3)機能語[助動詞・助詞・前置詞・接辞・代名詞等]の用い方のきまり(仕組み),とほぼいえるであろう。 たとえば,(A)〈ねこがねずみを食べた。…
※「文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」