村(フォークナーの小説)(読み)むら(英語表記)The Hamlet

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

村(フォークナーの小説)
むら
The Hamlet

アメリカの作家フォークナーの長編小説。1940年に発表、後の『町』(1957)、『館(やかた)』(1959)とともに、いわゆるスノープス三部作をなす。『村』では20世紀初期、ミシシッピ州ヨクナパトーファ郡ジェファソン町の外れのフレンチマンズ・ベンドという貧しい村に、アブ・スノープスという、プア・ホワイト(貧乏白人)の一族が現れ、長男のフレムが村の有力者バーナーの店の店員になり、やがて野性的な若者の私生児をはらんだ店主の娘ユーラと結婚して、しだいに権力を得てゆく経過が語られる。同じスノープス一族で牝牛(めうし)を愛する白痴アイクや、貧ゆえの憎しみから隣人を殺すミンク、さらには荒馬の競売や埋め金探しなどの挿話が、一種のブラック・ユーモアを交えて語られ、最後にはフレムがさらに成功を求めてジェファソンの町へ向かう後ろ姿が描かれる。『町』では、フレムが町の銀行の副頭取になり、かつ妻ユーラの情人である頭取のド・スペインを追い落として、ついに頭取にのし上がって、その館に移り住む。『館』では、最高の地位を極めたフレムを、『村』に登場したミンクが、自分を助けにきてくれなかった恨みのゆえに、40年近くの刑務所生活ののちに、ついに射殺して復讐(ふくしゅう)を遂げる。あとの二作品には、ユーラおよび彼女の娘リンダと、スノープスの跳梁(ちょうりょう)から人々を守ろうとする地方検事ギャビン・スティーブンズとのプラトニックな愛が描かれて、ミンクの復讐とともに、フレムの代表する出世主義の批判をなし、また全編に、冷徹な眼(め)をもったミシン販売人ラトリフが登場して、陰に陽にその批判を裏づける役目を果たしている。フォークナー後期の集大成的な作品群である。

大橋健三郎

『田中久男訳『村』(1983・冨山房)』『速川浩訳『町』(1969・冨山房)』『高橋正雄訳『館』(1967・冨山房)』

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