目次 風向と風速の観測 風圧と風圧計 風の性質 地衡風geostrophic wind 温度風thermal wind 傾度風gradient wind 旋衡風cyclostrophic wind 風速の高度分布 風の日変化 風のスペクトル 平均風速の度数分布 風系の種類 大規模な風系 中規模な風系 小規模な風系 風の利用 風車,風力発電 帆船,ヨット グライダー,航空機 拡散 風と地形 他の惑星の風 火星 金星 木星 風浪,うねり,高潮 神話 民俗 一般には地球上における水平な空気の流れをさして風といっているが,地球以外の惑星大気の動きも同じく風と呼んでいる。また,太陽から放出されるプラズマの流れを太陽風 という。なお上向きや下向きの空気の流れは気流と呼んで一般に風とは区別している。風はベクトル量であるから,ふつう風向と風速の二つの量で示されるが,気象学の分野で理論的な取扱いをするときは,東西成分と南北成分に分けて考えることが多い。風向は風の吹いてくる方向をさし,例えば北東から吹いてくる風は北東の風という。方向は北を基準として16方位または8方位で示され(図1),さらに詳しく表示する場合には北から時計回りに360度までの角度が用いられている。さらに地上気象観測法では0.2m/s以下では〈静穏〉として風向は測定しないことになっている。
風は日常生活のほか,古くから航海,漁業,農業と深い関係をもっているので注目されてきたが,特に四季の明確な日本では風の吹く時期,方向,風土との関係が重視され,信仰の対象ともされたこともあって多くの風に関連した故事,ことわざが残されている。また,ギリシアのアテネには〈風の塔〉(ホロロギオンhōrologionともいう。前1世紀ころの建築で,中に水時計があった)という八角の塔があり,その8面の壁には風向によって異なる天気を表す風の神の像が彫られている。
風向と風速の観測 気象台や測候所で風を観測する場合は,ふつう風向と風速が同時に測定できるプロペラ型風向風速計が使用されている。主として実験や研究用としては,白金やニッケルの細線を電気的に熱し,風によって失われる熱量を測定して風速を求める熱線風速計や,風の力を利用した風圧板型風速計やダインス風圧計と呼ばれるものもある。最近では超音波を使い,そのドップラーシフト (ドップラー効果 )を利用して風速変動と同時に温度変動も測定できる超音波風速温度計 が実用化され,大気環境調査などに広く利用されるようになってきた。上空の風を測定するには,水素やヘリウムを詰めた軽い気球を放球し,これをトランシット やレーダーにより追跡したり,大きな気球に測定器を搭載して行う方法や,音波を上空に発し,そのドップラーシフトを測定して風向風速を測定しようとする試み(ソーダー と呼ばれる)も行われている。
風は地形地物の影響を受けやすいので,風向風速計の設置場所は,付近に障害物のない開けた所(地上気象観測法によれば障害物の高さの10倍以上離れた所)を選定することになっている。また,自然の風はたえず変化しているので,これを平均的な値にするため現在では一般に前10分間の平均値で代表することになっている。例えば,10時の風向風速の値は9時50分から10時までの10分間の平均値をさしている。風速はm/sといった単位で表されるが,さらに風の強さによって表1に示すような風力階級に分けることもある。これはイギリス海軍の提督ボーフォートFrancis Beaufort(1774-1857)が考案したビューフォート風力階級 を基にして1964年に世界気象機関(WMO)が採用したもので,日本では気象庁風力階級 として利用されている。
風圧と風圧計 風で建物が壊れたり看板が飛んだりするのは風圧によるもので,風圧力とは風が建築物などの単位面積に与える力をさす。耐風設計用の風圧力P (kgf/m2 )は次式によって計算される。
P =Cq
ここでC は風力係数,q は速度圧(=1/2ρV 2 。ρは空気の密度,V は風速)である。風力係数は建物の形状により異なる定数で,例えば,閉鎖型の建物の風の真向いの面では0.8としている。風圧の計測にはピトー管 をつねに風に向かうように矢羽根で回転させ,速度圧を検出するダインス風圧計におけるのと同じ方法と,速度圧ではなくある特定の受圧面に働く風圧力そのものを測定する方法とがある。
風の性質 地表からおよそ1km以上の上空では地表摩擦の影響がほとんどなくなるのでそれ以上の高度の大気を自由大気と呼んでいる。まずこの自由大気中の風のふるまいを考えてみよう。〈風はなぜ吹くのか?〉。直接の原因は気圧の差であるといってよいであろう。それでは〈気圧の差はどうして起こるのか?〉。これは基本的には種々の緯度と高度における大気の不均衡な加熱によってひき起こされるもので,大気の塊の両端で加熱の度合が異なると暖かいほうでは大気が膨張し他の端と比べて圧力に差が生じるためである。この気圧差のために,高圧部から低圧部へ空気を加速する力,すなわち気圧傾度力が生じ風が吹くのである。
地衡風geostrophic wind 気圧差は気圧傾度力によって空気が移動すればすぐに解消してしまうはずであるが,一般に気圧分布のパターンが急激には変化せず比較的定常に風が吹くのは,風が等圧線を横切らず,平衡状態では等圧線にほぼ平行に吹くからである。このような平衡状態は図2に示すように気圧傾度力のほかにコリオリの力 が作用することによってもたらされるものである。コリオリの力はわれわれが地球とともに回転しながら大気の運動を観測するという事情によって生じる見かけ上の力であって,北半球では風の運動方向に対して直角かつ右側に働いている。気圧傾度力とコリオリの偏向力とがつり合った状態で吹く風を地衡風という。
気圧傾度力は,単位質量の空気当り の大きさをもち(ここでρは空気の密度,P は気圧,n は中心からの距離である),高圧部から低圧部へ向いている。一方,コリオリの力は空気の運動の速さ,つまり風速をV ,地球自転の角速度をΩ (7.29×10⁻5 rad/s),緯度φとしたときに,単位質量当り2Ω V sinφで表される。したがって地衡風の風速Vg は次式で表される。 つまり地衡風の風速は気圧傾度が大きいほど(等圧線が密なほど),かつ緯度が低いほど大きい(表2)。この地衡風の法則は緯度20°以上の地域における自由大気においてほぼ成り立つといわれている。
温度風thermal wind 図3-aに示すように,二つの等圧面の間の一定断面積の鉛直気柱の中にはその気圧差に相当する一定量の空気があるので,気温が高くなれば膨張して等圧面の間隔は広くなり,気温が低くなれば収縮して間隔が狭くなる。気体の状態方程式P =ρRT (P は気圧,R は気体定数,ρは空気の密度,T は絶対温度)から,二つの等圧面の間隔はそれぞれの場所において等圧面間の平均気温(絶対温度)に比例することがわかる。したがって図3-bに示すように下の等圧面が水平ならば,上の等圧面はこの二つの面の間の気温の高い所で高く,気温の低い所で低くなる。下の等圧面の傾斜が0ならば,気圧傾度力がないので地衡風は0となる。しかし,上の等圧面は傾斜があるためそこでは地衡風が吹くことになる。この風速は二つの等圧面の気温差に比例する。このような風を温度風と呼ぶ。図3-bからわかるように高温の部分の上には高圧部が,低温の部分の上には低圧部ができるため,温度風は下にある空気の低温域を左にみて等温線に平行に吹くことになる。偏西風と呼ばれている中緯度上空の西風は,低緯度よりも高緯度が低温であることによる温度風である。
傾度風gradient wind 等圧線が図4右のように曲がっているとき,気流が等圧線を横切らずに曲がるためには気流径路の曲率中心の方向に求心力が働かなければならない。すなわち,気圧傾度力とコリオリの力に加えて求心力が作用して平衡状態が保たれる。したがって次式が成立する。 上式をV について解くとR が非常に大きい場合,すなわち等圧線がほぼ平行な場合は前に述べた地衡風となり,等圧線の曲率半径R が小さい場合,例えば台風の中心付近や竜巻の域内は となり,遠心力が非常に大きくて,コリオリの力がほとんど効いてこない。この風を傾度風と呼んでいる。上式において の場合,すなわち高気圧域内の場合は とならなければならないのでR <0で,図4右のように気流の曲率半径が高気圧側にあり,風は時計回りに吹くことになる。逆の場合,すなわち低気圧域内の場合は であるからR >0となり,風は反時計回りとなる。
旋衡風cyclostrophic wind 台風の中心や竜巻などのように半径が小さくて風速が大きい場合,遠心力に比べてコリオリの力は無視できるほど小さい。このとき,遠心力と気圧傾度力が完全につり合った状態で吹く仮想的な風を旋衡風という。
風速の高度分布 地表付近の風は地表面の摩擦力の影響を受けるため乱れを伴うとともに,風速が上層の風より減少するのがふつうである。地表付近の風の性質は,当然地表面からの高さ,地表面の粗さ,大気の安定度などによって変化すると考えられている。このような風速の高度による変化の状態を風速の鉛直分布と呼んでいる。
地表付近の風速の鉛直分布を近似的に表すものとしては,対数法則と,羃(べき)法則がある。対数法則は風速の高さによる増加が対数的になるというもので,図5のように表される。ここでZ 0 は風速がグラフ上で0となる高さで,地表面の粗さの度合を示すパラメーター である。非常に滑らかな水面上で0.001cm,高さ10cmくらいの草がまばらに生えている所で0.7cmくらいの値となることが知られている。この対数法則は風胴境界層における実験値とよく一致し,野外では地表面にごく近い層(地表面から数十mの高さ)で大気の成層状態が中立の場合の風速の鉛直分布をよく表している。
建築物の耐風設計などでは,高度が数百mくらいまでの風速の鉛直分布については次のような羃法則がよく使用されている。
(U z はZ での風速,U 1 0 は10m高度での風速)
αは地物の状況などに関連する定数で,例えば海面上では1/7~1/10,東京などの市街地でビルディング 等が密集している所では1/4くらいの値が適当とされている。
風速は図6に示すように時々刻々変化し,弱くなったり強くなったりして,あたかも風が息をしているようにみえる。このような変動を〈風の息〉と呼んでいる。これは空気が一様に流れているものではなく,種々雑多な大きさの渦をまきこみながら一般流に流されているためである。変動している風速のある時間帯の平均風速と風速の変動成分の標準偏差の比を〈乱れの強さ〉と呼び,その期間でいちばん大きな風速を最大瞬間風速といい,平均風速に対する最大瞬間風速の比を突風率と定義している。一般に突風率の値は1.5~2の値をとるとされている。なお,風速の記録を表3に示す。
風の日変化 夜間放射冷却で地面から熱が大気中に放出されて地表面が冷やされ,その結果地面近くの空気が冷えると下層の空気が上層の空気に比較して重くなり,上下の混合が不活発となり,上層の風が強くても下層の風は弱い。これに反し,日中,特に晴天の日には地面が強く熱せられ,上層の空気と下層の空気との混合が激しくなり,上層の強い風が地面まで降りてくる。したがって下層の風が強くなり,上層の風は弱くなる。中緯度においては,下層は日中の風が強くて夜間は弱い,上層は夜間の風が強くて日中弱いという傾向がみられ,その境界はだいたい100m前後である(図7)。
風のスペクトル 風はいろいろの大きさの渦から成り立っていると考えるとそのスペクトル解析をすることで風速変動の性質がわかる。図8はファン・デル・ホーベンVan der Hovenによって解析された風速変動のスペクトルである。ピークはエネルギーが相対的に大きい所である。この図からだいたい5分から5時間という期間にわたってエネルギーの低い所が認められる。これは,このような時間の広がりで発生する風速変動がきわめて少ないことを意味しており,大気変動現象を,この変動周期を境界に分けて考えることができることを意味している。
平均風速の度数分布 平均風速の度数分布は図9の示すように左右非対称で,度数の最大は弱風側にかたよっている。その関数形についてはいままでも多くの研究がある。例えばポアソン分布,ピアソンⅣ型分布,χ分布などがあるが,最近ではワイブル分布 がよく適用されている。
風系の種類 地球上の風は大規模のものから小規模のものまでさまざまな風系が複雑にからまっている。図10は1月と7月の平均した地上風の流れのもようをみると,風が太平洋を横断したり赤道を越えたりして別の気流と合体し,東西南北にかけて地球上をくまなくかけめぐっていることがわかる。図11は地球上の平均風系の粗い模型である。赤道付近には赤道無風帯があり,それより高緯度側に偏東風のいわゆる貿易風帯があり,それより高緯度側に中緯度高圧帯があり,さらに高緯度側に偏西風帯がある。それより高緯度側に高緯度低圧帯があり,極のまわりは極東風帯となっている。なお中緯度高圧帯は〈馬の緯度horse latitude〉とも呼ばれる。これはスペインから新大陸に向かう馬を積んだ船が,この域内で風がやんでしまって進めなくなり,荷を軽くするために馬を海に投げすて,海面が馬の死体でいっぱいになったということから出ている。
大規模な風系 (1)貿易風帯 赤道付近の海上の北半球では北東貿易風,南半球では南東貿易風が定常的に吹いていると考えられていたが,最近ではかなりの風向の変動のあることがわかってきた。これらの風は亜熱帯高圧帯から吹き出し,赤道低圧帯に吹き込んでいる。図12は平均風向の緯度分布を,図13は風速の平均的分布を示したものである。赤道低圧帯の中心緯度は1月には南緯5°,7月には北緯12°~15°になり,年平均では北緯5°となる。この緯度のことを気象学的赤道ということもある。
(2)偏西風帯 中緯度高圧帯(緯度約30°)から緯度約60°までを偏西風帯という。偏西風帯では天気の変化が激しく,天気が西から変わるといわれるのは,この偏西風に流されて,高気圧,低気圧などのじょう乱が東進するためである。北半球では大陸が多いのでじょう乱が多く,下層での偏西風は発達しにくいが,南半球では大陸が少ないので偏西風はよく発達する。この偏西風を船乗りたちは〈ほえる40度roaring forties〉〈狂暴な50度furious fifties〉〈号泣する60度shrieking sixties〉などという異名で呼んでいる。
(3)ジェット気流 偏西風中にある幅数百km,厚さ数百mの特に風速の強い部分。第2次大戦中,日本の上空を飛んだアメリカのパイロットが100m/sにも及ぶ西風に遭遇し,のちにシカゴ大学の大気大循環研究グループによってジェット気流と名づけられた。ジェット気流の中心の平均の緯度は,夏には高緯度(北緯45°~50°)にあり,風速は比較的弱いのに対し,冬は低緯度(北緯30°~40°)に移動するとともに風速は強くなり,ときには100m/s以上となる場合も少なくない。
(4)極東風 極地方では放射冷却のため高気圧が発生し,そこから偏東風が吹き出すと考えられている。しかし高さが数km以下であるため,対流圏の中層以高で現れることはまれである。
中規模な風系 (1)季節風 モンスーンとも呼ばれる。季節風は,海陸の分布により,夏には大陸内では海洋に比較して高温低圧になり,冬には反対に低温高圧になるために,1年周期で変わる風系である。世界中で季節風の最も発達するのは,アジア大陸の東から南にかけての地方であるが,その他の地方ではスペイン,オーストラリア,アフリカの一部,アメリカのテキサス地方などがある。
(2)高・低気圧に伴われた風系 風と気圧との間には一定の関係がある。すなわち北半球では風を背にして立つと,左手の方向がその地点よりも気圧が低く,右手の方向が高くなっており,南半球ではこれと逆である。さらには等圧線の間隔が狭いほどそこを吹く風は強い。また,北半球では低気圧に対しては風は反時計回りに吹き込み,高気圧に対しては時計回りに吹き出している。この経験則は考案者の名をとってボイス・バロットの法則 として知られている。
(3)台風 熱帯地方で発生する低気圧を熱帯低気圧tropical cycloneというが,このうちで域内の最大風速が17m/s以上のものを台風と呼んでいる。台風域内の風速分布は図14に示すように,台風の中心付近でV /R =一定(V は風速,R は中心からの距離),その外域でVR =一定のランキンの複合渦となっていると考えてよいであろう。
小規模な風系 (1)海陸風 天気が良く,気圧傾度が弱くて一般流が小さいとき,昼間は陸上が海洋に比較して相対的に暖かく,夜は逆になる。したがって日中は海洋から内陸に向かって風が吹き(海風),夜間は内陸から海洋へ吹き出す(陸風)。両者を合わせて海陸風と呼んでいる。海風の及ぶ範囲はだいたい海岸から20~30kmで,陸風はそれより小さい。また大きな湖においても同じような現象が起こり,これを湖陸風と呼んでいる。
(2)山谷風 海陸風が発達するのと同じような気象条件のとき,昼間は麓から吹き上がり,夜間は山頂から吹き降りる風がある。前者を谷風,後者を山風といい,両者を合わせて山谷風と呼んでいる。谷風,山風はそれぞれアナバティック風anabatic winds,カタバティック風katabatic windsとも呼ばれている。アナバティックは〈上昇する〉という意味で,カタバティックは〈下降する〉という意味である。さらに,このように斜面に沿って吹く風のことを斜面風ともいう。
(3)局地風 局地的な地形によって作り出される風を局地風といい,その土地固有の風で〈おろし〉〈フェーン〉〈だし〉などの名で呼ばれている。
(4)竜巻 漏斗雲を伴う旋風のことで,不連続線が通過するときや雷雲が発生したとき,あるいは台風の外域などに起こりやすい。その回転風は大気中で見られる最も猛烈な風の一つであるが,その影響する範囲は直径が小さく径路も1~5kmと短いので,きわめて局地的である。竜巻よりさらに規模の小さい渦巻は旋風と呼ばれ,運動場などで土ぼこりを上げるものは,塵旋風といわれる。また大火災に伴って発生する火災旋風などがある。
(5)ビル風 高層ビルの間を吹き抜ける風は,建物のために風が収束して,平地の風速の2~2.5倍になることもある。このように建築物などの周辺に強風が生じる現象をビル風と呼んでいる。
風の利用 風は人間ばかりではなく,鳥,風媒花,種子の風散布など自然界でも広く利用されている。人間は古くから人間生活の中に風をとり入れ,自然の風を利用するばかりではなく強制的に風を起こして利用するなど,風とは密接な関係がある。以下に例をあげてみよう。
風車,風力発電 風車は古くはインドや中国などで,脱穀や製塩のために水を引き入れる道具として使われていた。ヨーロッパには12世紀ごろイスラム教徒によって伝えられ,14,15世紀ごろまで主として粉ひきの動力源として用いられていた。特にオランダでは4枚羽根のオランダ型風車が発達した。しかし自然の風は一定していないため動力源としては不安定なので,だんだんと水力などの他の動力源に代わっていった。最近,クリーンエネルギー問題が起こり,科学技術の発達に伴い,効率のよい風車の開発が行われ,風車を利用した風力発電が脚光をあびるようになってきた。外国で100kWから1000kWの大規模な風力発電が行われているが,日本でも風の強い離島や山岳地帯などで狭い範囲の発電用として本格的な開発が始められるようになってきた。現在では100kW以下のものが大半であるが,最近のオイル・ショックなどを契機として100kW以上の大型の風力発電が計画されている。
帆船,ヨット 風を利用した帆船は前4500年ごろにはすでにエジプトで用いられていた。しかし蒸気機関の発達などで衰退の一途をたどり,今日一般にはレジャー用のヨットが帆船の代表として利用されている。帆船は船員の訓練に使用されており,日本では運輸省所属の〈日本丸〉が活躍している。
グライダー,航空機 18世紀から19世紀にかけて盛んに試みられたものに自由気球があり,現在では熱気球による太平洋横断などが試みられている。第2次大戦中には偏西風を利用した風船爆弾が日本からアメリカ大陸に向けて数多く飛ばされた。現在レジャー用として使われているグライダーは,途中まではジープなどに曳航されるが,山岳の上昇気流を利用した大空の乗物である。高高度飛行するジェット機は,成層圏付近の強風帯であるジェット気流を利用して最短時間飛行による最も経済的な運航を心がけている。
拡散 大気汚染物質の拡散にも風が大きく影響しており,工場などの立地条件として汚染物質が収束するような場所は不適当とされている(大気拡散 )。
風と地形 風が地形によって風速を増大するのは,主として鉛直あるいは水平方向に収束することによると考えられる。例えば,(1)稜線もしくは山頂を越えるような場合,(2)峡谷や海峡を通る風,(3)リアス式の海岸で湾に吹き込む風が縮脈流となって湾奥で風速が増大する場合などがある。さらに山脈の風下側に吹き降ろす風の場合,山脈に直角に風が吹く場合,遮へい効果によってふつう風下側の斜面では風速が落ちるが,ときには山越えの気流が山麓に強く吹き降ろすことがある。このような風を〈おろし〉と呼んでいる。
他の惑星の風 人工衛星の打上げが盛んになり,地球以外の惑星の大気のようすもしだいに解明されてきた。
火星 火星は地球に比較して大気振動の大きい惑星である。地球上でも月の引力や太陽の放射熱によって起こされる大気潮汐があるが,火星ではダストによる熱潮汐が日々の天気を支配しているからである。現在ではまだダストの効果や地形,炭酸ガスの相変化などをすべてとり入れた完全なものはないが,ある程度の仮定をして火星の大気大循環モデルをつくりコンピューターシミュレーションを行ったものはある。図15はその一例の結果を示したもので,北半球と南半球とではまったく風系が異なっている。北半球には強い偏西風が吹き,上層では60m/s以上のジェット気流が見られる。このような強い偏西風は赤道から熱を運ぶためではなく,極でのドライアイス生成による大気の質量損失を補うために極方向へ大気の移流が起こることによって維持し続けられている。
金星 金星の自転周期は243日であるが,紫外線写真によれば縞模様の雲が約60倍も速い4日という周期で赤道に沿って回転していることが示されている。一方,こうした雲の動きとは別に一連の人工衛星による風の観測が行われ,金星の上層大気は100m/s前後の速度で運動していることがわかった。
木星 木星の雲はいろいろの層をなして大気中に浮かび,また規則正しく帯,縞模様を織りなして特徴ある木星の素顔をつくっている。雲の動きから,帯の赤道側は遅く回転し,極側はより速く回転しており,縞部分はその逆となっていることが解明された。その結果,帯や縞の両端では反対向きの風が吹くことになり,風速の最大値がここで生じる。例えば赤道帯や北緯23°付近では100m/s近い偏西風が吹き,南緯18°~20°付近では50m/s近い偏東風が吹いている。
風浪,うねり,高潮 風によって起こされる波のなかで波長のあまり長くないものを風浪 といい,波高の割合に波長の非常に長いものをうねり という。風浪とうねりでは波の形も異なり,風浪の波頂はとがっているが,うねりの波頂は山形にまるくなっている。日本では波高によって,風浪もうねりも10階級に分けている。
台風や低気圧の中心が海岸地方を通過する際,海水面が異常に高くなり,海水が陸地に浸入してくることがある。これを高潮 または風津波という。高潮を起こす原因には次の五つが考えられる。(1)中心の気圧が低いために海面が持ち上げられる。(2)風が陸地に向かって吹きつけるため海水が海岸に吹き寄せられて海面が盛り上がる。(3)湾内の海水が台風などによって静振を起こしその長波の速度が台風の進行速度と一致するかそれに近いとき,共鳴作用によって海面の盛上りが大きくなる。(4)風浪のため。(5)潮汐で満潮時と一致した場合。日本では大阪湾,東京湾,伊勢湾,有明湾などが高潮の起こりやすい地域とされている。 執筆者:花房 竜男
神話 ギリシア神話では風神 はまず,西風ゼフュロスZephyros,北風ボレアスBoreas,南風ノトスNotosに区別され,曙の女神エオスとアストライオスがその父母とされている。ボレアスは,アテナイの王エレクテウスの王女オレイテュイアを自分の本拠地のトラキアにさらってきて,双子の息子カライスKalaisとゼテスZētēsを産ませた。アルゴ船の遠征に参加したこの兄弟も,明らかに風の精のような存在で,父と同じく翼があって,空中を猛烈な速さで飛ぶことができた。ゼウスによって雷で打たれ地底の暗黒界タルタロスに投げこまれた怪物の王テュフォンTyphōnも風の主で,吹く方向と時期が不定の激しい旋風を地上と海上に吹き送り,人々を苦しめる。またアイオリアAioliaと呼ばれる青銅の城壁で囲まれた浮島には,アイオロスAiolosという名の風神が住んでおり,航海の途中この島に立ち寄ったオデュッセウスを歓待したうえに,彼に順風以外のすべての風を詰めた皮袋を持たせて出発させた。ところがオデュッセウスが眠っている間に,彼の家来たちが酒が入っていると思いこの袋の口を開けたため,たちまち暴風が吹き荒れ,船はまたアイオリア島に吹き戻されてしまったという。
アメリカ原住民の神話にはしばしば,もとは手に負えぬほど猛烈だった風の勢いを人間のために弱めた英雄の手柄が物語られている。アブナーキ族の神話によれば,風は巨大な怪鳥の翼によって起こされるが,あるとき英雄のグルスカベがこの鳥と戦ってその翼を折ったので,傷が癒えても翼は前よりずっと小さくなり,風の勢いもずっと穏やかになった。セネカ族の信仰によれば,風をつかさどるのはガ・オーという名の人間に好意的な善霊で,その住居の入口にはクマの形をした北風ヤ・オ・ガー,ピューマの形をした西風ダジョジ,ヘラジカの形をした東風オヤンドネ,子ジカの形をした南風ネ・ア・ゴが閉じこめられており,これらの風たちを支配することによって,ガ・オーは季節の変化もつかさどることになっている。 執筆者:吉田 敦彦
民俗 日本は世界有数の季節風帯に位置し,地形が複雑で長い海岸線に沿う舟運は季節風を巧みに利用してきた。一方,二百十日前後に多い台風は,稲作の生育・収穫に重要な影響を与える。このため,人々は風に強い関心を寄せ,敏感,微妙な感覚を身につけている。季節のうつろいや事態の変化などを風にことよせて豊かに表現するのはこのあらわれといえる。また風を単なる自然現象とはみないで,目に見えない霊的なものの去来と観念してきた。古代には風は生命の根源と考えられ,特別な風に当たると受胎するとも感じた。外敵襲来に対し〈神風〉の吹くことを期待したこともあった。〈風邪〉も風と同音であり,ウイルスによる他の伝染病もカゼの名をつけて呼ぶ例がある。悪疫流行に際し,災厄除去に〈カゼの神送り〉行事としてわら人形を作って焼き捨てる。神の出現には風が伴うものという考えは,神無月に神々が出雲へ旅立つ際や霜月の大師講の〈大師講吹き〉によく表現されている。
冬季に吹く北方大陸系の風に〈たま(たば)風〉があり,〈たま〉は霊魂のことで,悪霊の吹かせる風の意らしく,船乗りに恐れられている。主として富山県以北の日本海側から津軽海峡を太平洋岸に回り込んで,岩手県あたりまで分布する。同じく北系統の〈あなじ(あなぜ)〉という風名の〈あな〉は驚きを表し,〈じ・ぜ〉は風を示す。〈たま風〉同様,悪風として恐怖感を伴う。これらの悪風に対し,夏から初秋に多い〈あい〉〈あいの風〉は,日本海沿岸に広く分布し,海から種々の珍しいものを打ち寄せてくれる好ましい風とされる。また北前船は,日本海北部海域からこの風に乗って上方方面へ航行した。この風は,往時の日本海航行になくてはならない風で,万葉の昔からこの風名の流伝は絶えなかった。能登半島では特にこの風に対する信仰が強く,祭りの日には決まって〈あいの風〉が吹くという。
《十訓抄(じつきんしよう)》には,信濃の国は風早き所なので,〈風の祝(はふり)〉という神職を置き,100日間忌みこもることが記されている。古くから風祭が行われていたことが知られる。〈風の又三郎〉は東北地方でいう妖怪で,新潟県などでいう〈風の三郎様〉とともに,風の神としてまつられる。富山県西部の庄川,神通川,常願寺川の中流地帯は,風の神をまつる〈風神堂〉という小祠が集中して点在する。越中八尾の〈風の盆〉は,風の神送りと祖霊供養の盆踊とが習合した民俗芸能である。北陸のフェーン現象がその背景をなす。(コラム参照) →風祭 執筆者:北見 俊夫
風のコラム・用語解説 【風の異名】 [日本] あいの風 夏の日本海側で吹く北寄りの風。あまり強くなくて涼しい風。かつて海上輸送の帆船が上りの順風として利用した。 青嵐(あおあらし) 5~7月の青葉のころに吹く南風。 あなじ(乾風) 〈あなぜ〉〈あなし〉ともいう。冬に西日本で吹く強い北西季節風。〈あなじの八日吹き〉といって,陰暦12月8日に荒れ模様になることなどがこの風の特徴。 油風(あぶらかぜ) 〈油まじ〉〈油まぜ〉ともいう。4月ころ吹く南寄りの穏やかな風。 いなさ 海から吹く南東ないし南西風。特に台風期の強風をいい,東日本,なかでも関東でおもにいわれる。 送南風(おくりまぜ) 盆の精霊(しようりよう)を送ってから吹く南風。 おろし(颪) 山から吹き降ろす冷たい風で,滑降風の一種。主として太平洋側でいわれ,同種の風を日本海側では〈だし〉という。山の名をつけ〈筑波おろし〉〈那須おろし〉〈赤城おろし〉〈六甲おろし〉などと呼ばれる。冬の北西季節風は太平洋側で〈おろし〉の性質をもつ。 オロマップ 北海道の日高山脈の南麓に吹く強風。 貝寄風(かいよせ) 春に吹く冬の季節風のなごりで,主として西寄りの風。陰暦2月22日に行われる大阪の四天王寺の聖霊会(しようりようえ)に貝製の造花を供えるが,この貝は貝寄風が難波の浦に吹き寄せた貝殻を使うことからきた。 神渡(かみわたし) 〈神立風(かみたつかぜ)〉ともいう。陰暦10月(神無月)に吹く西風。出雲大社へ出かける神々を送る風の意味。 空っ風(からつかぜ) 冬の冷たく乾燥した強風で,日本海側から山脈を越えて関東平野へ吹き降りるもの。上州(群馬県)でよく使われる。 雁渡(かりわたし) 〈青北風(あおぎた)〉ともいう。雁が渡って行く初秋(9~10月)に吹く北風。 下り(くだり) 日本海沿岸,特に北陸地方以北でいわれる南寄りの風。都(京都)より下るのに好都合な夏の季節風を意味する。 こがらし(凩,木枯し) 晩秋から初冬にかけての大陸からの季節風のはしり。木の葉を吹き落として枯木のようにする風。冬季の本格的な季節風に比べてあまり長続きはしない。 東風(こち) 春に吹く東の風。〈梅東風(うめごち)〉〈桜東風(さくらごち)〉〈雲雀東風(ひばりごち)〉など時期に応じた名をつけて呼ぶ。 高西風(たかにし) 関西地方以西で10月ころ急に強く吹く西風。 だし 陸から海に吹き,船出に便利な出風(だしかぜ)の意味。日本海側では東または南風,東海地方では北風のことが多い。特に日本海側で多く用いられる風名で,6月を中心に4~10月に吹く強い東または南東風をさす。山形県庄内地方の〈清川だし〉,新潟県北部の〈荒川だし〉,北海道後志支庁寿都(すつつ)の〈寿都のだし風〉などが有名。太平洋側での〈おろし〉と同種の風。 たま風 〈たば風〉ともいう。冬に北日本の日本海側で吹く北寄りの風。 ならひ 〈ならい〉ともいう。東日本の太平洋側で吹く冬の季節風。冬の卓越風は地方によって風向が異なり,北東風,北風,西風などさまざまである。 涅槃西風(ねはんにし) 陰暦2月15日の涅槃会(釈迦入滅の日の法会)のころに吹く北西季節風のなごり。〈彼岸西風(ひがんにし)〉〈彼岸荒れ〉などと同じ。 野分(のわき) 〈のわけ〉ともいう。秋に吹く暴風。 南風(はえ) 山陰,西九州地方でよく用いられる南風の呼名。梅雨の初めの黒い雨雲の下を吹く〈黒南風(くろはえ)〉,梅雨の最盛期の強い南風の〈荒南風(あらはえ)〉,梅雨明け後に吹く〈白南風(しらはえ)/(しろはえ)〉などといわれる。 早手(はやて) 疾風とも書き,〈疾風(しつぷう)〉〈陣風(じんぷう)〉ともいう。寒冷前線の通過に伴う突風で,しゅう雨を伴うこともある。春の強風は〈春疾風(はるはやて)〉〈春荒(しゆんこう)/(はるあれ)〉〈春嵐(はるあらし)〉などという。 春一番 〈春一(はるいち)〉ともいう。立春後に初めて吹く暖かい南寄りの強風。2番目,3番目をそれぞれ〈春二番〉〈春三番〉という。 ひかた 広く日本海側一帯でいわれる夏の南寄りの強風。北海道の小樽やオホーツク海沿岸でいわれる〈ひかた〉は春の強い南風で,これはフェーンである。 平野風(ひらのかぜ) 奈良・三重県境の高見山の西麓に吹く冬の強風。関東地方でいう〈おろし〉にあたる。 比良の八講荒れ(ひらのはつこうあれ) 琵琶湖西岸の白鬚神社(比良明神ともいう)では陰暦2月24日から4日間,延暦寺の衆徒が《法華経》8巻を読誦する法会があり,この法会を比良八講という。このころ寒気がぶり返し,比良山地から琵琶湖西岸へ吹き降りる強風を〈比良の八講荒れ〉〈比良八荒(ひらはつこう)〉などという。 星の入東風(ほしのいりこち) 陰暦10月ころ吹く初冬の北東風。星は〈すばる〉のことで,冬の夜空に〈すばる〉がよく見える季節になると天候が変わりやすくなる。中国地方や畿内の船人のことば。 まじ(真風) 〈まぜ〉ともいう。瀬戸内地方から伊豆地方にかけて太平洋沿岸の各地で使われる。春から夏にかけての弱い南寄りの季節風。春の〈桜まじ〉〈油まじ〉,盆の精霊送りの後の〈送南風(おくりまぜ)〉などがある。 まつぼり風 阿蘇の火口原にたまった冷気が外輪山の立野から白川沿いに熊本平野へ吹き出す強風。春や秋に多い。〈まつぼり〉は余分,へそくりなどの意味。 山背(やませ) 本来は山を吹き越えてくる夏の東風のことで,フェーンの性質をもつ風。現在では北日本,特に三陸地方の初夏から盛夏にかけて,オホーツク海高気圧に伴って吹く冷湿な北東風をさし,凶作風として恐れられている。 [世界] アウストル Austru ドナウ川の下流地域で吹く乾燥した西風。 アブロホロス abroholos ブラジルの南東海岸で吹くスコール性の風。5~8月に多い。 インバット imbat 北アフリカ沿岸の暑さを和らげる海風。 ウィリー・ウィリー willy-willy オーストラリアにおける強い熱帯低気圧の呼名。オーストラリア西部ではつむじ風をウィリー・ウィリーと呼ぶことがある。 エテジア etesian 地中海東部,特にエーゲ海一帯に夏季(6~9月)に吹く北風。夏の乾季をもたらす風で,陸上の貿易風に相当する風系である。この風名にちなんで,夏は高温乾燥,冬に雨が降る地中海気候のことをエテジア気候ということがある。 カラブラン karaburan 中央アジア,特にゴビ砂漠周辺で春から夏にかけて吹く強い北東風。しばしば砂あらしを伴う。カラは〈黒い〉,ブランは〈雪あらし〉の意で,白い雪あらしに対して〈黒い砂あらし〉を意味する。 コラ colla フィリピンの強風。 サンタ・アナ Santa Ana アメリカのカリフォルニア州南部サンタ・アナ地方に吹くフェーンを伴った北寄りの乾熱風。 シロッコ scirocco/sirocco 地中海北岸に吹く暖かい南または南東風。サハラ砂漠の熱帯気団が北上し,初めは乾燥しているが海を渡るうちに高温多湿(40℃以上になることがある)となり,霧や雨,ときにはサハラ砂漠の砂塵を伴って吹く。この風は国や地域によっていろいろな呼名がある。 スホベイ sukhovei 中央アジアで吹く東または南東の乾熱風。6~8月に多く,気温35~40℃になり,この風が吹くと植物が枯れるといわれる。 スマトラ sumatra マラッカ海峡の突風で,マレー半島とスマトラ島に吹く。4~11月の南西モンスーン期,特に8月,また夜に多く,2~3時間の強風と強雨をもたらし,陸に入ると衰える。 ソラノ solano スペイン南部で吹くほこりっぽい東風。 タク taku アラスカの南東部ジュノー付近で吹く東または北東の強風。 チヌーク chinook ロッキー山脈東麓に吹き降りる西風で,乾燥したフェーン風。この風が吹くと気温が急上昇し,雪が溶けるのでスノー・イーターsnow eaterともいわれる。 チリ chili 地中海中部・南部での北アフリカやアラビア半島の砂漠からの熱風。 バギオ baguio フィリピンにおける台風の呼名。 ハブーブ haboob アフリカのスーダンに吹く砂あらし。夏に多く,夏は南東風,冬は北風。砂漠上の高温な大気に相対的に冷たい大気が侵入し,強い対流現象が起こるために発生する。 ハムシン khamsin カムシンともいう。エジプトで春に吹く南寄りの風で,大量の砂ほこりを運んできて,視程がきわめて悪くなる。この風が吹くと,非常に乾燥して暑く,不快感をおぼえる。また紅海に吹く南または南西の強風もハムシンという。 ハルマッタン harmattan アフリカの西部,ギニア湾北岸からベルデ岬へかけての沿岸部に,冬季(11月~3月)にサハラ砂漠から吹いてくる北東貿易風。乾燥した風で,風塵を伴うことが多い。しかし雨季の蒸し暑い風と異なり,非常に涼しく気持ちがよいので,健康によいと考えて,この地方ではドクターdoctorとも呼んでいる。 パンペロ pampero アルゼンチン,ウルグアイで吹き降ろす西または南西の突風。寒冷前線に伴って草原を吹きわたる。 フェーン Föhn アルプス地方の北斜面を吹き降りる暖かい南風。現在では一般用語化し,山脈の風上側で湿潤断熱的に上昇し,冷却,乾燥し,風下側では乾燥断熱的に吹き降り,乾いた暖かい風になるものをフェーンと呼んでいる。 ブラン buran シベリア,中央アジアで冬季に吹く北東の強風。地吹雪のため視程ゼロとなる。 ブリザード blizzard アメリカ東部・中部における吹雪を伴った強風。アメリカの気象用語では風速14m/s以上,低温,視程500フィート(約152m)以下の状態を〈ブリザード〉,風速20m/s以上,気温-12℃以下,視程ゼロの状態を〈激しいブリザードsevere blizzard〉と定めている。現在では一般用語化し,この種の暴風雪をブリザードという。 ヘルム helm イギリスのペナイン山脈の西斜面を吹き降りる北東の強風。 ボホロク bohorok スマトラのバリサン山脈を吹き降りるフェーン。 ボラ bora ハンガリー盆地から山を越えてアドリア海の東岸に吹き降りてくる冷たい北東風。冬季,中部ヨーロッパおよびバルカン半島で気圧が高く,地中海の気圧が低いときに吹く。現在では一般用語化し,寒冷な突風を伴う滑降風をボラという。この場合,滑降の途中で断熱昇温しても,もともと寒冷な空気なのでさほど気温も上がらず冷たい風である。 ミストラル mistral フランスのローヌ川峡谷を通り,地中海の北西沿岸,とくにリオン湾に吹き降ろしてくる北寄りの強風。冬から春に多く,冷たくて乾燥した風で,性質はアドリア海のボラに似ているが,ボラよりはいくぶん穏やかである。 ロンバルド lombardo アルプスのイタリア側の斜面を上昇し,フランス側へ吹き降りる一種のフェーン。 執筆者:
花房 竜男